第2話 逢えなくても …… 1



「39度8分…ですか…」


一条さんが体温計を見て、溜息を零した。


さっき、父さんの主治医が往診に来てくれて、傷と疲れと精神的な要因が重なったんだろう_と、言われた。


でも、オレは、口で息をするのが精一杯で、他の事を考える余裕なんてなくて、

今が朝なのか夜なのか、それより何日なのか、そんな事も分からなくなっていた。



「こんな状態の貴方を置いていくのは、辛いのですが、どうしても今日中に片付けなければいけない案件がありまして…

すみません。終わり次第、直ぐ戻って参ります」



そうか…まだ…夜じゃないのか。

えーと…


「…いって…らっ…しゃい……オレ…の事は…気に…しないで…だい…じょ…ぶ…」



思ったより、声が掠れてて驚いた。

これじゃまるで、重病人だ。


「貴方って人は。こんな時でも、そんな事…」



一条さんが扉を閉めた音を確認すると、オレは、再び意識を手放した。



どれ位眠ってたのだろうか。


再び目を覚ますと、部屋は、薄暗くなっていた。


夕方…なのかな?


それにしても…


オレは、喉の渇きを覚え、起き上がろうとしたけど…


ダメだ…力が入らない。


それでも、どうにかして…と、思い、ズルズルと這うようにして、布団を巻き込みながらベッドから落ちた。


はぁ…布団すら重い。


布団を抜け出し、そのまま這って扉の前まで行き、少しだけ上体を起こしてレバーを下げ、扉を開けた。


なんか、猫になった気分。


廊下に出ると、


はぁ…冷たくて気持ちいい


フローリングに頬を擦り寄せ、体温を冷やす。



疲れた。ここで英気を養ってから、また動こ…それ…まで…おや…すみ…




「愛?おい!愛!」


「ん?……ん…」


「良かった……。 こんな所で…ったく!」



あれ? ぁ…そうか…オレ…眠っちゃったんだ…


一条さん…帰ってきたんだ。


ごめんなさい…心配かけて…



「寝室は、どこにあんだよ。」



…え?


一条…さん…じゃない…?



うつ伏せになっていたオレの身体を仰向けにされた時…


ふわっと鼻孔を擽った匂い。


でも…それは、ありえない。


だってその人は、今頃空の上だから。



「すっげぇ熱い。 愛?こんな所で何したかったんだよ」



オレ…また夢でも見てんのかな?


でも…でも、夢でもいい。


もう…どこにも行かないで…!

ずっと傍に居て…!


オレは、愛しい人の幻影に縋り付いた。




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