事実と真実 17


*****




「今日は、悪かったな」


「仕事は?」


「一日休みを貰った」



一条さんと哲哉さんの、二人の会話を心地良く聞きながら、靴を脱いだ。


警察署の帰り、哲哉さんは、わざわざ玄関まで送ってくれた。



「大丈夫だったか?」


「哲哉さんに、いろいろ助けて貰ったので、良かったです」


「…哲哉さんね」


「何だよ」


「昨日、会ったばかりだろ?」


「妬いてんの? だったら、リュウも下の名前で呼んで貰ったらどうだ?」


「ぁ…あの…?」



何で? ケンカ…?じゃないよね…?



「どういう意味だ?」


「じゃぁ、一つ訊くけど、いつからなんだよ? 自覚は、あるんだろ?」


「だから、どういう意味だ?」


「だ、か、ら、好き過ぎて困ってんだろ?」


「 ……っ!!」


「まっいいけど。今度、呑みに行こうぜ。聞いてやるよ。気持ちを口に出さないと、そのうちとんでもない所で爆発しちまうからさ」


「…もう遅いよ」


「…へ?…そ、それって、どういう意味だよ?」


「今日は、悪かったな」


「おい!」


そう言って、半ば強引に哲哉さんを外に出して、扉を閉めた。



「あの…哲哉さん…大丈夫ですか?」


「アイツの事は、気にするな。 早く上がりなさい」


「でも…オレ…よく分からないけど…悪いのは、哲哉さんじゃなくて、オレなんだよね?」


「……何故、そう思うのですか?」



上手く説明出来ない。

けど…オレの事で、争ってた気がする。



「分からないのに、悪いのは自分だ_なんて、思わない事です」



一条さんは、困ったような笑顔を浮かべて、オレの頭を撫でた。



「疲れたでしょ?お茶でも淹れますよ」


と、リビングの方に歩いて行ってしまったので、オレも、それに続いた。


リビングに入って、パーカーの上に羽織っていたジャケットを脱ぐと、一枚の紙がヒラッと舞った。


それが床に落ちる前に掴んだ一条さん。

紙に目を落とすと、途端に眉間に皺が。


ぇ…何?ていうか、一条さん、やっぱり機嫌悪いよね…?


溜息と共にその紙を手渡された。


ぁ…名刺だ。誰の?


捜査一課 鈴木一郎?


えっ? 有名な、元メジャーリーガーと同じ名前だ。


裏面を見ると、『何か困った事がありましたら、連絡下さい。』

の文字と共に、携帯番号が書かれていた。


ていうか…


「刑事さんも、名刺持ってるんですね。」


「そこですか? 貴方って人は。」


さっきより深い溜息…。


「こんな時、藍君なら…」


「え?…藍が何?」


「いえ…何でもありません…。」




その日は疲れてしまって…夕飯も食べずに眠ってしまい…


夜…


オレは、熱が出た。





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