事実と真実 15


警察署に到着すると、担当?の刑事さんが出てきて、今、事情聴取を受ける部屋へと案内されている。



「何で、顔を隠してんだ?」



廊下を歩きながら、哲哉さんが小声で訊いてきた。


それは、パーカーのフードをかぶり、伊達メガネとマスクをつけてるから。



「…顔出すの…怖くなったから…」



オレが覚えてなくても、安堂の客達は、オレの顔を覚えているという、当たり前の事を昨日になって、思い知らされた。


その事で、一緒に居る大切な人達に、迷惑をかけてしまうという事も。



「そうか…わかった…」


「こちらです。どうぞ」



案内された場所は、会議室のようだった。

取調室を想像してたオレは、ホッと息をついていると、中で、一人の男性がオレ達を待っていた。


あっ…この人…


昨日、あの場所に居た人だ。


あの言葉を言った人の顔は知らない。

声だけが、はっきり聴こえてきただけだから。


でも…


足がすくんでしまう。



「…愛ちゃん?大丈夫?」



哲哉さんが心配して、顔を覗きこんでる。

ダメだ…しっかりしなきゃ。


オレは大きく頷いて、また歩きだすと、


「オレがついてるから」


と、哲哉さんは何故かオレにではなく、相手の刑事さんに向かって呟いた。



オレと哲哉さんが並んで座ると、向いに刑事さんと、ここまで案内してくれた若い刑事さんが並んで座った。


初めに刑事さんが身分証を提示しながら、「後藤です。ご足労いただき、ありがとうございます」と、言うと


哲哉さんも、後藤という刑事さんに身分証を提示して、

「須藤です。電話で説明させて頂いた通り、今日は、如月さんの付き添いで来ました。 よろしくお願いします」と、頭を下げた。



「須藤さんは、警部なんですね。失礼しました。まだお若いのに」



え?そうなの? よくドラマとか、アニメとかで出てくる偉い人だよね?


オレの視線を感じたのか、オレと後藤さんを交互に見ながら

「いえ…私なんか、まだまだです」

と、顔の前で手を振りながら、困ったように笑った。


「では、早速ですが…、」と、後藤さんが、隣の若い刑事さんを見遣ると、彼は書類の上にペンを持ってオレを見た。


どうやら、後藤さんが聞き出した事をこの若い刑事さんが、書き留めるらしい。


それから、訊かれた通りに、氏名、年齢、住所、職業を答えた。


「それでは、事件の経緯をお尋ねします。まず、被疑者と接触した時の事なんですが…声をかけたのは、どちらですか?」


「向こうです。名前を呼ばれました」


「という事は、以前から知り合いだったのですか?」


「オレは…忘れてましたけど…」


「どういう事ですか?」


「それは…」


「もし、話しづらかったら…、」


哲哉さん…ありがとう…でも…


「うん…大丈夫。 …オレは…以前…男性を相手に売春行為をしていて…彼は…その時の客です」


手のひらの汗が、ハンパない。

尋問されてるみたいだ…。


「という事は、今回の件は、合意の上だったのではないですか?」



…ぇ…っ…?



「んだと?コラッ!」



オレの反応より、哲哉さんの方が全然速くて、気付いた時には、机を挟んで後藤さんの胸ぐらを掴んでいた。



「暴走族あがりというのは、単なる噂じゃなさそうですね」


「ぁあ?!」


「哲哉さん、オレは大丈夫だから」


哲哉さんは、オレの一言で離してくれた。


「……彼が、哲哉さんの事をオレの客だと誤解して…話をつけると言い出したので…哲哉さんに、迷惑をかけたくなかったし…5分…オレが…たった5分我慢すれば、丸く収まると思って……そういう意味では、合意の上…だったかもしれません」


「合意ね…」


「は? 何聞いてんだよ。オレにバレたく無かったら、言う事きけ…ていう、立派な脅しだろ?」


「如月さん、こういう事に慣れてるんじゃないですか?」


「ぇ…あの…それは…どういう意味…ですか?」



バン!


音に驚いて隣を見ると、哲哉さんが机を叩いて立ち上がっていた。

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