事実と真実 14


エレベーターに乗り、B1Fのボタンを押すと、哲哉さんが、振り返りながら訊いてきた。


「なあ…龍児、何かあった?」


「……え?」


「目が真っ赤だったから…まあ…寝不足なんだろうけど…なーんか…違うんだよな…」


そう言えば、昨日の夜から、おかしかった…

今日は、いろいろあり過ぎたし…。


おかしいと言えば、オレもおかしいよね…。


「何かあったんだ」


顔を上げると、オレの顔を覗き込んでいた。

刑事の顔?


「いろいろと…」


「いろいろって?」


扉が開き、駐車場内を歩き始める。


「オレも…おかしいのは、分かるけど…何故かは、分からなくて。昨日も、少し変だったし」


ピッという電子音が鳴り、哲哉さんの車のハザードが点滅した。


少し先を歩いていた哲哉さんは、助手席側を開けてくれて、オレを待っている。


そんな風にエスコートされるのは、何度されても慣れるものじゃない。

オレは、恐縮しながら助手席に座った。


運転席に座り、シートベルトを掛けた哲哉さんは、「出るよ。」と、一言かけて、走りだした。


駐車場を出て、最初の角を曲がったところで、話の続きをされた。


「変…て、何が変だったの?」


「うん…それは…その…簡単に説明すると…哲哉さんは、オレの事好きだよって、一条さんが…、て、…ひゃぁっ!」


急ブレーキをかけられ、前のめりになる。


「哲哉さん?」


「え?……ぁ…ああ。悪い」


再び、ゆっくり走り出す。



「何で、そんな話になった?」


「それは…今日…哲哉さんに迷惑かけるかもしれない…て、話したから…」


「ん?…何で?」


そうなるよね…


「……話したくない?」


「…詳しくは……ごめんなさい。 ただ…付き添ってくれる哲哉さんに、嫌な思いをさせてしまいそうで…」


「それで、オレは愛ちゃんが好きだから、気にすんな…て、事か」


「はい…」


「ついでに、事情聴取の事、話しておくけど、大体、こういう場合、同性の刑事が担当するんだ。 愛ちゃんの場合、同性に…その…された訳だけど…

ごめん。怖い思いしたり、嫌な事訊かれたりすると思うけど… その分、オレが付き添ってフォローするから」


「…うん…」


もう…言われたから…分かってるよ。


哲哉さんは、チカッチカッと、ハザードランプを点灯させてから、車を端に寄せ、

シフトをパーキングに入れると、完全にオレの方を向いた。


え?何?オレ、何か言った?


「もしかして昨日、オレの仲間に何か言われた?」


「え…っ?」


「はぁ…言われたのか…」


「ぅ…ごめんなさい…」


「何で、愛ちゃんが謝るの?」


「オレの知り合いっていうだけで、変な目で見られると思うし…その…オレは…言われて当然だけど… 哲哉さんは、違うのに…嫌な思いさせちゃったら…ごめんなさい」


「クソッ」



え?


哲哉さんは、オレの頭を抱え込むように、抱きしめた。



「何で、そうなんだよ。いいか? 愛ちゃんは、全然悪くない。堂々としてればいいんだよ」



……哲哉さん…。


頭をポンポンとしてから、身体を離すと、



「ん?それで、龍児は、何で変なんだ?」


「あ…えっと…一条さんも、オレの事が好きなんですか?て、訊いたんです。」


「そしたら?」


「少し時間を置いてから、『好きです』て、答えてくれたけど、悲しそうな表情だったから、気になっちゃって…」



哲哉さんは、片手で口を覆いながら、暫く考えていたようだけど、

「大丈夫だよ。好き過ぎて困ってるだけだから。」

と、冗談ぽく答えてくれた…


けど…上手くはぐらかされたみたいで…気になる。



それから、哲哉さんは再び車を走らせた。




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