事実と真実 11


そこへ、ノックと共に一条さんの声が…



「愛?」


「ぁ……はい!」


慌てて布団を掛け直す。


ドアの隙間から顔だけ覗かせた彼は、少々呆れ顔だ。



「朝食出来てますよ」


「今、行きます」



閉まった扉を見ながら、今の残像が甦る。


一条さん。眼鏡掛けてたな。今日、仕事じゃないのかな?


…あ…それより…


もう一度捲り、穿いてた下着と、もふもふパンツを探す。



無い…


何で?


床にも落ちてない…。 昨日…オレ…何した?


落ち着け…!


とりあえず、別のを穿いてリビング行かなきゃ…。


部屋の隅に置いてあるキャリーバッグを開け、下着とジャージパンツを取り出した。


穿きながら、ふと一つの仮説が浮かんだ。


一条さんが今朝起きた時、オレの下着が汚れてるのを見つけて、洗濯した…とか?


もふもふ穿いてるのに、わかるかな…?


訊いてみる?


訊けない…!何て訊くの?


どんな夢見てんだよ…て、思われるよね…


はぁ…



答えが出ないまま、リビングに入った。


ローテーブルの上には、既に朝食が並んでいた。



「…おはようございます」


いつ訊く?ていうか、なんて訊く?


「おはようございます」



一条さんは、広げていた新聞紙を畳んで、横に置いた。


眼鏡を掛けてるせいか、表情が読み辛い。


座りながら、何気にソファを見ると…


下着ともふもふパンツが、畳んで置いてあった。



ぇ…?


ぇ…ぁ………うわあぁぁぁっ!


ゃ…やっぱ…やっぱそうじゃない?


確定じゃない?


どうしよう、どうしよう!


めちゃくちゃ恥ずかしい!



耳まで一気に熱くなった。



「…愛? どうしたんです?」


「ごめんなさい! そんな物まで洗わせてしまって……」


「はい?」


恐る恐るソファの上の物を指差した。


「……ああ。」


「昨日…リアル過ぎる夢見ちゃって…それで、そんな恥ずかしい事になっちゃって…ごめんなさい!」



さっきの一条さんの呆れ顔が、眼に浮かんだ。


昨日、あんな事されたのに夢でもヤるなんて、どんだけ盛ってんだよ…て、そう思われてるのかも。



「愛?洗濯の件は、気にしないで下さい。 その…下の方だけ…寝汗が酷いようでしたので、脱がせて洗濯乾燥かけただけです」


「へ?」


「ですから…気にされてるような事では無い…かと…。」



ぇ……ひ…ひやあぁぁぁっ!


何言っちゃってるの? 

オレ…バカじゃない? これじゃ、恥の上塗りじゃん!


恥ずかしい…!



「今言ったことは、忘れて下さい!」


「それは構いませんが…その前に一つだけ。どんな夢だったんです?」


「なっ…ななんで?」


「どんな?」


穏やかな口調だが、威圧的で答えざるを得ない感じだ。


「……藍が…身体に…その…上書きしてくれました…」


「…良かった?」



そんな事まで?


一条さんの表情は、眼鏡に光が反射してよく分からない。

だから、真意が読めなくて不安になる。


「……はい。……だから…あの…下着を汚してしまったんじゃないかと思って…。」


そう答えると、一条さんは眼鏡を外し、目頭を押さえた。


それから顔を上げて淋しそうに小さく嘲笑った。



「…答えづらい事訊いて、すまない。

朝食が冷めてしまいますね。食べましょうか」



眼鏡を掛けてた時は、気づかなかったけど、目が真っ赤だ。


どうしたんだろう?

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