事実と真実 10



「随分…急なんだね」


『ごめんな。大まかな日程は、決まってたんだけど、向こうの都合で急遽決まった』


「仕方無いよ。お仕事なんでしょ?」


『前から話があったイメージモデルの最終面接だ』


「良かった。ちゃんと進んでたんだね」


『当たり前だろ? 心配し過ぎなんだよ』


「うん……いつ頃帰ってくるの?」


『一週間位かな。……今日、会えて良かった』


「オレも…ギュッとしてもらえたし…それに…もふもふの部屋着も貰ったし…頑張れそう」


『それ、オレが思ってる愛のイメージだから。』


「オレの…? ヘヘッ…ありがとう…」



なんか…電話だと耳許で囁かれてるみたいで、照れくさい。



『それともう一つ。面接が無事終わったら、オレ達の事、もう一度葵さんに話してみようと思う』


「……え…っ?」


『反対されてんだろ?』


気づいてたんだ。

返事に困って、沈黙になってしまう。


『悪かったな。辛い思いさせて』


「……全然」


平気そうな声を出したけど、バレバレなのか、笑われてしまった。


『…これまでの殺人的スケジュールを考えても、やっぱ葵さんの協力は、必須だと思う』


「うん…でも焦らないでね。……その…葵さんの気持ちを考えて。…ね?」


『おう』


「それと…やっぱり葵さんと同じ部屋なの?」


『急だったから、そうなるかもな。 なんだよ…気になるのか?』


「気になる…ていうか…心配?」


急に心配になった。

遠い異国の地で、同じ部屋で、しかも同じベッドだったらどうしよう。


『愛に心配されるなんてな。 珍しくて死にそう。』


「からかわないで」



その後…お互い『おやすみ』して、通話ボタンを切ろうと、携帯を耳から離そうとした瞬間、不意討ちの『愛してる』の一言。


電話で良かった。

オレ、今、どんな顔してる?


『待ってる』って…『どんな愛も好き』って、言ってくれたけど…


自信無い…



それから…


やっぱり、あの寝室でひとりで眠る勇気が無くて、ソファで一条さんを待っていたら、いつの間にか眠っていた…。


急に身体がフワッと浮いたので、一条さんが、寝室まで運んでくれてる事に気づいたけど、

疲れてるせいか、身体が動かなくて、そのまま眠ってるフリしてたら、そのうち本当に眠ってしまってた。




その夜、藍の夢を見た。


藍が、オレの身体に触れようとしている。



「…ダメ…触っちゃダメ…汚れてるから…」


「まだ、そんな事言ってる」


「本当だって。本当に今回は…汚れちゃったんだ」



それでも藍は、オレの身体に手を伸ばして、裾をたくし上げた。


一瞬で顔が歪む。


だから…言ったじゃん。汚れてるって…。


そんな顔した藍を見たくなかったのに…


オレは、辛くなって裾を下ろそうとしたけど、藍が押さえていて上手くいかない。



「藍…?もう…」


「…こんなになるまで、擦って」



藍?泣いてるの?


藍が、オレの肌に触れる。



「血が滲んでるじゃないか…」


あの男から付けられた跡を風呂場で、思いっきり擦った。

そんな事で、剥がれる訳無いとわかってはいたけど…擦らずにはいられなかった。



「…そんな顔しないで」


藍の頬に手を伸ばす。


「オレが上書きしてやる」



ぇ…?


藍は、オレの腕を片手で纏めると、

そっと首筋に唇を落とした。


その言葉通り、オレの身体についてる全ての痕に優しく唇で触れていった。


オレが痛がらないように、そっと…そっと…



威圧的な言葉とは裏腹に、その行為は優しくて…




翌朝……



目が覚めた時、なんともリアルな夢だった事に、気恥ずかしさを感じた。


どんな夢見てんだよ……。


とりあえず、下着の汚れをチェックしようと、布団を捲ったが……



何でオレ…何も穿いてないの?



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