事実と真実 9


少しの沈黙…


また、空気読まない発言だったか?と思い始めた頃。



「……はい。好きですよ」



答えてくれた一条さんのその表情に、オレは戸惑いを覚えた。


どうして、そんな悲しそうな顔するの?



「あの…一条さん?」



そこへ藍からの電話。


一条さんは、その表情のまま、リビングから出て行ってしまった…。



気持ちを切り替え、通話ボタンを押す。



「…こんばんは」


『遅くなって悪い。もう寝てた?』


「ううん。一条さんが作ってくれた……パンケーキ…食べてた…。ヘヘッ」


『こんな時間に?』


「うん…太っちゃうね…ヘヘッ」


『……愛?』


「ん?」


『何かあった?』



ぅ……っ……オレ…どっか変だった?



「…何も無いよ。…何で?」


『………そっか。なら、いい』



なんか…バレてるっぽいな


藍の勘がいいのか…オレの嘘がヘタなのか…。



…嘘…か…。


オレは、自分の気持ちに蓋をして、ついつい笑顔で嘘をついてしまう癖がある。


ショックな事があっても、笑顔で平気だよ…みたいな態度をとる。


だって…『辛い。』て、言ったら、周りの人達が、困っちゃうだけでしょ?


でもその分、ひとりになると、辛さが倍以上になって返ってくる。



そういうオレの癖…藍は、見抜いてるみたいだ。


なんか…嬉しい。



「藍…?」


『やっぱ、何かあった?』


「うん…ヘヘッ。」


『何があったんだ?』


「うん………まだ…どう話せばいいのか……もう少し…時間くれる…?」


『…わかった。待ってる。』


「ただね……藍が好きなオレから少し離れちゃったかもしれない…

……だけど、必ず頑張って追いつくから…嫌いにならないで…ね」



小さな笑い声。そして、いつもの笑顔が思い浮かぶ声色。



『いいよ。頑張らなくて』


「……ぇ」


『まだ短い期間だけど…愛とつきあって、わかった事がある。それは…

どんな愛も好きだって事。何をされても許してしまう自信がある』


「…藍……ヘヘッ」



泣きそうなのと、照れくさいのとで、笑って誤魔化した。



『こんな気持ちを知ったのも、愛のおかげだ。 サンキュな』


「……オレも…藍に出逢えて良かった」


『……おう』



お互い照れ笑いの後、大事な事を思い出した。



「藍?話って?」


『ああ…』



急に現実に戻ったみたいに、声色が暗くなる。


何だろ…?いい話じゃないの?



『実はオレ…明日、イタリアに出発する。』


「………」


『………』


「………イタ、イタリア?」



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