事実と真実 8


一条さんが、せっかく作ってくれたオムライスも味わう事が出来なくて…


結局、沈黙のまま。


せめて、謝りたいけど…


口が重い…。


自分の事なのに、説明できない…。



こんな空気のまま夜になり、風呂から上がると、甘ぁい匂いがしてきて、釣られるようにリビングに行くと、パンケーキが焼いてあった。



うわぁ…!


生クリームとジャムがトッピングしてある、オレが大好きな甘いヤツ。


ローテーブルに置いてあるパンケーキに見惚れていると、キッチンから一条さんが、コーヒーを運んで来た。



「中途半端な時間に食べてしまいましたので、そろそろ、小腹が空く頃かと思いまして作ってみました。お口に合えばいいのですが。」


「……ぅ…うん…。ありがとう…。」



パンケーキの前に座り、目の前に座った一条さんの前を見ると、コーヒーだけが置かれている。



「…食べないの?」


「…パンケーキは、あまり…嗜みません。」



そっか…


ひと口切り分け、口に運ぶ。


甘い香りが口いっぱいに広がって…


ちょっとした幸せを噛み締めながら一条さんを見ると、

一条さんもオレを見てたみたいで、視線が絡む。



ぁ…ぇ…と…



「…おいしいです。…あ…一条さんも、ひと口如何ですか?」


と、急いで切り分け、ひと口差し出した。


照れくさいのが相まって出たセリフだったけど、

一条さんの反応を見て、空気を読まない行動だったと後悔した。


だって、目を見開いたまま固まってるし、明らかに引いてる…。



「ぁ…ごめんなさい。無理強いは、ダメですよね。」



パンケーキが刺さったフォークを引っ込めようとしたら、その手を掴まれてしまい、また反射的にビクッとなるオレ…。



「あっ…ごめんなさい、またオレ…、」


「いえ…驚かせてしまってすみません。いただきますね。」



安心するような笑顔を見せると、オレの手を掴んだまま、口の中に運んだ。


っ…!!


その行動に、胸の奥を熱い鉄の槍で貫かれたような、そんな感覚に襲われた。

自分で撒いた事なのに。



「…一条さん。」



まだ咀嚼中なので、片眉を上げて、オレの次の言葉を待っている。



「…オレの事…気持ち悪くないの?」



一瞬、怪訝そうな顔した。けど…直ぐにオレを見据えて話し始めた。



「…気持ち悪いなんて…思った事ありませんよ。」



わかってた。わかってたけど…でも…どっか不安で…



「…ありがとう。 凄く…嬉しい。」



やばい…泣きそう。


誤魔化したくて、パンケーキをひと口食べた。



「…おいしい。」


「恐れ入ります。」



ぁ…でも…哲哉さんは…



「明日の事情聴取…哲哉さんに、迷惑かけるかも…。」


「奴の事は、気にするな。半分は哲哉の仕事なんだから。」


「……うん。」


「…何か心配な事でも?」



実は…哲哉さんが傍にいない時、他の警察の人達から…いろいろ言われた…。



男同士で? 気持ち悪いな。



そんなに…いい身体なのか?



誘ったんじゃないか?



「哲哉さんは…実際に見たわけだし…オレの事…気持ち悪いと思っても…仕方…無い…。」


「…愛? ちょっと触れるよ。」



そう前置きしてから、オレの手を包み込むように触れた。


うわ…あったかい…。



「哲哉も、私と同じ気持ちだと思いますよ。

目の前で…愛が辛い目にあってるのに…助けられない。 悔しかった筈です。」


「ほんとに…そう…思う?」


「哲哉は、愛の事が好きだよ。 勿論、藍君のそれとは、種類が違うけどね。」


「一条さんも、オレの事が好きなの?」





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