事実と真実 6


一条さん?


オレの脳が理解するより先に、哲哉さんは、オレの背後に飛び降り、ナイフを弾き飛ばし、男を締め上げていた。


男の呻き声が聞こえて、漸く現状を理解し、振り向くと、

哲哉さんが、身分証を提示していた。



「警察だ! 14時18分。強制わいせつ罪で現行犯逮捕する。」



男に手錠をかけ、大きく息を吐きオレを見た。



「愛ちゃん…?」



ああ…TVドラマみたいだな…とか…


仕事の顔の哲哉さんも、素敵だな…とか…


どこかでこれは、夢なんじゃないか…


とか…考えていて、


哲哉さんの何度目かの呼びかけに、漸く返事をすると、オレが壊れたんじゃないかと、物凄く心配されてて…



「テツ!愛に何かあったのか?」


「…ああ…。今、外に出る。 愛ちゃん…ズボンとか…自分で穿ける?」



ぇ…?


哲哉さんに言われて、自分の下を見た。


ボクサーとデニムが、足首の辺りまで落ちている。



は…? ぁ…そうか…そうだった…


夢なわけないじゃん。


そう思ったら、何故か可笑しくなって


喉を鳴らして嘲笑った。


さっきまで、そこにいる男に触られまくって、感じてたじゃん…


変な声出して、腰を揺らして、コイツの愛撫に応えてたじゃん…



可笑しさは消え、涙がポロポロ溢れてきて、その場にしゃがみ込んだ。



「愛ちゃん。…ごめん。ドア開けるよ。」



哲哉さんが、外開きの扉を開けた。



「リュウ。支店に連絡するから、愛ちゃんを頼む。 とりあえず、服を…着せてやってくれ。 くれぐれも、お前が取り乱すなよ。」



2人が出て行った後、再び扉は閉まった。



「愛…?入ってもいいですか?」



一条さん…?


滲んだ視界の先に、足許に落ちたままのボクサーとデニムパンツが見えた。


ぁ…ヤバい。



「ちょっ…ちょっと待って。支度が…」



オレと違って、きちんとしてる人だから、こんな姿見たらきっと軽蔑する。


嫌いな相手にも、普通に話せる人だから、これからずっと、軽蔑されながらつきあっていくのって、お互いキツイよね…


立ち上がってボクサーに手をかけた瞬間、扉が開き、一条さんの靴が見えた。



「…支度とは、どういう…意味_、」



間に合わなかった。


表情を伺おうとしたけど、まだ視界が滲んでてよく見えない。



「…こんな格好で…ごめん…なさい。直ぐ…支度するから…」



一条さんは、そこに立ったまま動かないし、何も言わないので、ああ…呆れてるんだな…と思った。


一旦顔を伏せてボクサー、デニムパンツを穿き、再び顔を上げると、そこには一条さんの姿は無かった。


いよいよ嫌われたな。


そう思った瞬間…


叩きつけるような、凄まじい音が聞こえてきたので、急いで外に出ると、

倒れているあの男を一条さんが、見下ろしていた。


一条さんが、男を殴った…。

2人の様子を見れば、それは明らかだった。





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