事実と真実 5


身体がビクッとなって、思わず上を見た。



「テツ…ヤ…さん?」



隣の個室との仕切りの上から、まさにコチラに乗り込もうとしているところだった。



「一緒だった男か。」



後ろの男も見上げているようだ。



「お前には、渡さんぞ。」


「は?」


ぇ…?



「この美しい身体は、私のものだ。お前なんぞに渡せるか。 このコの一生を私が買ってやるつもりだ。」



そう話しながらも、男の手は、オレの胸、下腹部を弄っていた…


熱を帯びてくる男の吐息。



「アンタ…いかれてるな。」



哲哉さんが発したその言葉は、オレが言われたみたいに感じられた。


哲哉さんにも知られてしまった。


こんな汚い世界があるって事を。



「…ぁ…っ…んっ…」



急に首筋に、チクッとした痛みが走り、

声をあげてしまう。



「イイ声で啼くだろ? 私が身体中に印をつけてやる。それまで、そこで眺めていろ。」


「んな事させるかよ!」


「そこから動くな!」



首筋に冷たい感触。


これって…まさか…?



「馬鹿なマネは止めろ!」


「護身用に、持っていて良かった。少しでも動いたら…わかるね?」



ナイフだ…



「…クソッ!」


「ああ…至福のひと時だ…!」



胸を弄りながら、背中に舌を這わせ、時折チクッとした痛みが走ると、身体がピクッとなり、同時に声をあげてしまう。


片方の手が胸から脇腹に下り、そしてオレの中心に触れた。

反射的に出てしまう声…。



「…哲哉さん…、オレは…大丈夫だから…

だから…もう…行って…!」


「愛ちゃん…?」


「…こんな…姿…見られたく…無い…もう…声だって…だから…早く行って…!」



こんなヤツにオレは…



藍…



今度こそ本当に…汚れちゃったよ…



「ハァッ…ァ…ッ」


「…可愛い声だよ…」



「やめろ!」



哲哉さんの声が遠くに感じる…。


もう…早く楽になりたい。




オレの…理性…




「テツ。そんな所で何やってるんだ?」







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