事実と真実 2


昼の1時は、とっくに過ぎていたので、会社員の姿は無く、女性のグループが何組か座ってるだけだった。


メニューを見ると、まだランチタイムらしく、お手頃な値段で、ハンバーグ、オムライス、メンチカツとエビフライのそれぞれのセットメニューがあった。



「オレは、エビフライが入ってるセットで…リュウは、ハンバーグ食わせておけば、文句ねぇだろ。 愛ちゃんは、どうする?」


「オレは、オムライスで。」



いつか藍が作ってくれたオムライスを思い出して、自然と口許が緩む。



「わっかりやすいメニューで良かったわ。 見た事ないカタカナが並んでたら、やべぇな_て、焦ってた。 スマートにオーダー出来なきゃ、大人じゃないじゃん?」


「そんな事無いですよ。 あ…でも、哲哉さんのそういう親しみやすい所、好きです。」



オレにも聞こえるくらいの音で、水を飲み込んだ哲哉さん。

物凄く咳込んでる。

また、変な事言っちゃったかな?



「……愛ちゃんに言われると…ノンケのオレでも勘違いするわ…。」



気管にでも入ったのか、まだ苦しそうだ。



「あの…何かわからないけど…ごめんなさい。」


「いいって。愛ちゃんは、悪くない。 周りの人間が、しっかりすればいいだけの事。 ただ…今みたいな事言うのは、彼だけにしとけ。」


「…はあ。」



その後、店員さんにオーダーしてから、

オレは、トイレに向かった。



トイレから出てくると、通路に男性が立っていたが、特に気にも止める事無く通り過ぎようとした。


けど…



「……如月愛さん?」



自分の名前を呼ばれて思わず立ち止まり、振り返ってしまった。



「……ぇ…と…?」



白髪混じりの品の良い男性で、パッと見でも分かる高級スーツと、腕時計を身に着けていた。



「また始めたんだね。あそこに座ってる連れの人は、お客かな?」


「あの…?」



この時のオレは、この男性が何の話をしているのか、全くわからなかった。



「私の事、忘れちゃたのかな?」



男性は、胸ポケットから名刺入れを取り出し、1枚の名刺をオレの前に差し出した。


反射的に受け取ったそれには、代表取締役社長と印刷されていた。



「社長さん…。」


「あのマンションでやってるのかな?

また遊びに行かせて貰いたいのだが?」



ぁ……



こういうの…平和ボケ…て、いうのかな


ちょと前のオレなら、直ぐに気づいただろ?



2,3歩後退った。


けど…もう遅い…



「オレ…そういうの……止めたんで…」



絞り出した声は、今にも消え入りそうで…


ダメだ…もっとはっきり言わなきゃ…



「あっちの客は、いくら出したの?」



ほら…ダメだ…伝わって無いじゃん…


ていうか、今、なんて言った?



「あっちの倍は出すぞ。」




ぇ…何…?



「不満か? 君なら、これだけ出しても良い。」



男は、オレの前に両の手の平を見せた。



この人は、何を言ってるんだ?




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