好きだからこそ 14



「藍は、毎日のように追い返してくれて…

最初は、申し訳無い気持ちで、いっぱいだったけど…その背中を見つめているうちに…

守られている事に対して…嬉しさの方が、勝ってきちゃって…

でも、今思えば、藍を矢面に立たせちゃいけなかったんです。何故なら…、」



落ち着け…これを言うために、今日、来たんだから。



「何故なら…追い返した男達の中に、この書き込みをした人物も、居たからです。」



教室の音声を拾うスピーカーから、ざわつく声が聞こえてきた。



「この人物は、私を何度か…買っています。

敢えて今は、名前を公表しません。ですから、これ以上、藍と私に対する嫌がらせ行為を止めていただきたいんです。

藍と私の、どの行為が、あなたの怒りに触れたのかわかりませんが、藍にとって唯一、素の高校生に戻れる場所を取り上げようとした、あなたの行為は、許せません!」



そこへ、スッと哲哉さんがオレの前に現れ、マイクの前に立った。

オレを背中に隠すその仕草が、藍と重なり、胸がチクッと痛んだ。



「同席させていただいております警視庁警備部須藤哲哉です。今日は、プライベートで来てるんだが、いつでも、仕事の顔に戻れるから、そのつもりで。」



哲哉さんは、マイクの前で、舌をチロっと出してから、再びマイクを譲ってくれた。



「…皆さんに、お願いがあります。決して、犯人探しは、しないで下さい。 そんな事をしても、いい結果は得られないし、何より藍が、嫌がります。ヘヘッ」


「すみません。ちょといいですか?」


「ぁ…はい。」



最初から、同席していたスーツ姿の男性が、スッとマイクに近づいてきた。


マイク…というより…オレの唇に近かったので、かなり焦った。



「皆さん、こんにちは。私、サイトの運営会社で、こちらの担当をしております、大河内匠と申します。2ーA 大河内薫は、私の妹です。いつもお世話になっております。 さて、今回の件につきましては、私共も検討の余地があると、考えております。 つぶやきの内容や、それに対しての通報システム、私共の管理システム等、検討させていただき、近々に、反映させていただきますので、よろしくお願いします。」



大河内さんは、オレに微笑みかけてから、オレの後ろに下がった。



「ぇ…最後に、お願いがあります。この放送をするにあたり、協力してくださった方々 は、私が勝手にお願いしただけなので、何の罪もありません。学校関係者の皆さん、罰するなら、私だけにして下さい。

最後に、この度は、お騒がせしてしまい、申し訳ございませんでした。」



プチッとスイッチを消し、息を1つ吐いたと同時に、身体の震えが一気にきた。



終わった…?ちゃんと言えた?


振り向くと、哲哉さんと大河内さん、放送委員の人が拍手をしてくれたので、それでやっと、やり遂げたのだと感じることが出来た。



「哲哉さん、大河内さん…えーと…?」


「加藤です。」


「すみません、加藤さん。今日は、本当にありがとうございました。」


「言いたい事は、言えた?」


「ええ…まあ…伝わってくれてたら…嬉しいんですけど。」


「それじゃ…帰るか? オレの役目は、家まで無事届けて終了なんでね。」


「はい。…お願いします。」



オレが出口に行きかけると、手首を誰かに掴まれ、阻まれた。



「あの…その前に、ちょといいですか?」



大河内さん…?



「ごめんね。」


と、彼は、申し訳無さそうに呟いて手首を離すと、とても話し辛そうに、話し始めた。



「オレの事…覚えてない?」


「…え…っ?」


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