好きだからこそ 13
『実はこちらに、向川の公式サイトで、今、話題、になっているあの内容について、是非、謝罪させて欲しいという、ゲストの方がお見えになっています。』
ん?
何か引っ掛かり、スピーカーに目が行く。
『ぁ…あの…ぇ…と…オレ…じゃなかった…私は、みんなのつぶやきというコーナーで、男娼と書き込まれました、如月愛と申します。』
…は?!!
『今回のこの内容で、皆様に不快な思いをさせてしまった事について、深くお詫び申し上げます。 本当に申し訳ございませんでした。』
「ぁ…んのバカ! 何考えてんだ!」
オレは、北本を放し、ドアを開けようとしたが、今度は、クラスの奴ら全員で、オレの動きを阻んだ。
「行かせろ! オマエらも、何考えてんだ!」
『それと、オ…私と深く関係していると書き込まれた、紫津木藍さんの釈明も、させて下さい。』
「はあ?…いいから、退けッ! 北本!アイツが、何を話そうとしてんのか、オマエ、わかってんのか?」
「…わかんねぇけど、愛ちゃんと約束したんだ。全て話すまで、紫津木を教室から出さない…て。」
「…全て…て…んなの、ダメに決まってんだろ!」
コイツら…!
手ぇ出す訳にいかねぇし…チッ
どうしたら、いいんだ!
『私は、昨年の9月から、約一年に渡り、男性を相手に身体を売って参りました。』
「クソッ…!」
愛の告白を聞いて驚いたのか、抑えこまれてる力が緩んだところで、すかさず抜け出した。
どうする?ドアがダメなら、窓?
窓際に駆け寄り、窓の外を覗く。
ここは、3階だ。
だが、ここしかねぇ。
なんとか伝って、隣の教室まで行けねぇか?
『そうするように、ある人物に脅されたんです。 …脅された内容は……ここでは、申し上げられません。』
ダメだ…考えてる暇はねぇ。
オレは、勢い良く窓を開け、枠に足をかけた。
身を乗り出し、もう片方の足も乗せたところで、後ろから、腹の辺りにしがみつかれた。
「紫津木!早まるな!落ち着け!」
「るせぇ!つか、お前が落ち着け。オレは、隣の教室に、行きたいだけだ。」
「何考えてんだ!3階だぞ!」
「こうでもしなきゃ、あの放送止められねぇだろ!」
『……多い日で…5人…相手しなきゃ…いけなくて…』
!!……っな事まで…!
一瞬、気が緩んだ隙に、教室の中に引きずり戻された。
だがオレは、直ぐに窓に向かう。
アイツ、どこまで話す気なんだ。
窓枠に手をついた瞬間、今度は、羽交い締めされた。
「オイ!最終手段だ。アレ持って来い!」
アレ?
1人の男子が、布テープ?のような物を持ってきた。
「縛れ!」
は?
なんて考えている間に、4人がかりで、つま先から肩の辺りまでグルグル巻にされて、一見ミイラのようなオレが出来上がった。
「北本!テメェ!何考えてんだ! 解け!」
『……ゲイの人だけじゃなくて…興味本位で、オレの身体を……触りにくる人達もいて… 写真撮られたり…屈辱的…で…死にたい…と…毎日…思ってました。』
ぁ…あ…い…愛…!愛!
「ゃ…やめろ! 止めてくれ!」
クソッ!
『……毎日…怖くて…怖くて。朝が来るのが、怖くて。 でも…そんな…毎日の中で…気づいたんです。感情があるから、怖いんだ…て。 だから…人形になる事にしたんです。 ただ…男達に、身体を開くだけの人形に…。』
「うわあぁぁぁっっ!! オマエら聞くな!耳、塞いでろ! クソッ……オレが、オレが悪いんだ!オレが…こんな…モデルなんて仕事してるから… 愛の過去が、晒される事に…! ごめん…こんな…大切な人、一人守れないなんて…。」
情けねぇ…
まるで、全校生徒の前で、愛が全裸になってるのを黙って見てるような…そんな感覚。
早く、毛布で包んでやりたいのに…
悔しくて、情けなくて、涙が滲んできた。
「オイ!紫津木!しっかりしろ!」
「北本…」
「オレ達は、耳を塞いでいてもいいが、オマエは、しっかり聞いてやらなきゃいけないんじゃねぇの?」
ぇ…?何…?
「紫津木に対する誤解を解きたいっていうのが、一番だろうけど、こうやって、皆の前で話す事によって、今まで直視する事を避けてた過去を乗り越えようとしてんじゃねぇの?」
ぇ…え…?
「…だったらオマエが、見届けてやらなきゃダメだろ!」
ぇ…ぁ…っ…そう…なのか?
確かに、アイツは、オレと居ても、どっか遠慮がちで…
それは、自分の過去に引け目を感じているからで…
だからオレは、アイツの過去ごと腕の中に閉じ込めた。
世間の目に晒されないように。
だが…それじゃダメだったのか…?
『でも…そんな私に、もう一度、命を吹き込んでくれたのが、藍でした。』
愛…
『藍は、私が、男娼だという事が、わかってからも、毎日のように来てくれて、時には、男達を追い返してくれました。
書き込まれていたような、毎晩、私を買ってたなんて事は…一切ありません!
ただ…私を買ってたフリをして、後から来る男達を追い返してただけです。』
ペリッ
隣で、じっと聞いていた北本が、布テープを剥がし始めた。
不思議に思いながら、様子を伺っていると、
「紫津木。オマエ…いい男だな。」
と、手を止める事無く呟いた。
「な…っ何言ってんだよ。」
「バーカ。そんなカッコで、照れてんじゃねぇよ。」
「るっせぇ。テメェが、やったんだろ。」
オレは、自由になった手首をさすりながら、
足のテープを解いている、小学校からの親友を眺めた。
「…北本さ…」
「あ?」
「…たまには、いい事言うよな。」
「なんだよ。いい男ってか?」
「違ぇわ。その前だよ。」
「は?何だっけ?」
「うん…サンキュな。」
紫津木藍 side end
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます