好きだからこそ 11


翌日 AM 11:30


マンション前で待っていると、1台の車が目の前に止まり、運転席から 1人の男性が現れた。



「如月愛さん?」


「…はい!」


「時間無いから、とりあえず乗って。」



急いで助手席に座り、シートベルトを締めると、彼は、ウインカーを点灯させ、速やかに発進させた。



「悪いね。仕事がたてこんじゃってて。」


「いえ…。」


「決して、怪しい人間じゃないから。何か、オレの事聞いてる?」


「…古い友人が、迎えに行くから_と、それだけです。」


「ハァ…相変わらずなんだな。オレの名前は、須藤哲哉。仕事は、これでも公務員。」



暗めの茶髪の事を言ってるのだろうか。

如何にも昔、ヤンチャしてました、という風貌だ。



「須藤さん。今日は、すみません。お仕事が、お忙しいのに。」


「哲哉でいいよ。送迎ぐらい、なんて事無いし、本来なら、今日は、非番だったんだから。」



軽く頭を下げてから、外の景色に目を移す。


これから、自分がやろうとしていることを考えると、緊張してくるし、本当に正しいのだろうか?と、不安にもなってくる。



「龍児から色々聞いてる。」


「……え…っ?」


視線を哲哉さんに戻した。



「送迎だけじゃなくて、ボディーガードも頼まれたから、知っといた方がいいと思って、オレから訊いたんだ。」


「……訊いた…て、何を…?」



自然と、膝の上の拳に力が入る。



「ぁ…そんなに、固くならなくて大丈夫だよ。 愛ちゃんは、知らなくて当然なんだけど、オレ、すみれちゃんの事も知ってるし。」


「えっ?……母の事、ご存知なんですか?」



ぁ…そうか。一条さんの友達なら、知ってて当然か。



「そう。それに、訊いたって言っても、愛ちゃんの扱い方だから。」


「扱い方…?」


「集団が苦手とか…自分より背の高い男が、怖い…とか…?」



たまたま赤信号で止まって、オレの方を見た哲哉さんと、視線がぶつかり、咄嗟に逸らしてしまった。



「オレも、龍児ほどじゃないけど、愛ちゃんよりは、背が高いかな。」



信号が青になり、再び走り出す。



「オレの事も、怖い?」


「いえ…。」



何かもっと説明した方がいいと思うんだけど、言葉が、思い浮かばない。


全然、怖くないのに…。



「着いたよ。」



……ぇ…



外に目を向けると、見覚えのある風景。


でも…その前に



「哲哉さん。帰りも、お話し出来ますか?」


「ぇ…ぉ…おう。いいぜ。でも、その前に、やる事ヤッて来なきゃな。」


「はい!」



オレ達は、向川高校の正門に立った。



「今、昼休みだから、比較的入りやすい時間帯だとは、思うんだけど…、ああっ!」



哲哉さんの視線の先を見ると…先生?


体育教師なのか、ジャージ姿だ。



「宮内、オマエ断ったんじゃねぇのかよ!」



哲哉さんの問は、スルーして、オレに視線を移すと、少し驚いたように、目を見開いた。



「すみれちゃんに、そっくりだろ?」



何故か得意気な哲哉さんは、またスルーされた。


そんな彼に、ムッとしたようで、



「いいか?邪魔するなら、公務執行妨害で、逮捕するからな。」


「公務じゃねぇだろ?」



えええっ?


刑事さんなの?そりゃ、公務員に間違い無いけどさあ…



「オレは、教師だ。オマエらが、これから、やろうとしていることには、反対だ。」



物凄い圧迫感で見下ろされ、思わず、哲哉さんのジャケットの裾を掴んでいた。



「退けッつったら?」



哲哉さんの声が、低くなる。



「いいから聞け。オレはこれから、校内巡視に行く。もしかしたら、オマエらが行きたい所も、通るかもしれないが、知った事じゃねぇよな?」


「…そういう事かよ。」

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