好きだからこそ 10



「ケン…カ…?」


『そう。アイツにしては、珍しいんだよな。今まで、しょっちゅう絡まれてたけど、ケンカなんて、買った事ねぇのに。

アイツも、相手ヤンキーも、理由訊いても何も話さねぇんだよ』


「ぇ…と…ケ、ケガは?」


『ああ。それは、大丈夫。相手が、一方的にヤられてたから。』


「ぁ……良かったぁ……。」



相手の人には悪いけど、とりあえずは、安心した。


でも…



「…学校に…居辛くなってる?」


『まあ…クラスの連中は、気にしてねぇけど、学校の中には、完璧人間の紫津木藍を疎ましく思ってた連中も、居るからね。』



モデルの紫津木藍が、普通の高校生に戻れてた唯一の場所なのに…


酷い。


何かオレに出来る事は、無いだろうか?



『だから、ちょとの時間でも会ってやれねぇかな?』


「……え?」


『そうすれば、ちっとは元気になると思うんだよね。』



いや…ちょっと待て…


会えるのか…?



……無理だ。



今、このタイミングで会ったりしたら、書き込まれた内容が、本当という事になってしまう。



「ダメ…会えない。……会っちゃいけない…と思う。」


『ぇ…ぁ…噂の事、気にしてんなら、オレらがフォローするから、大丈夫だよ。』



違う…



「藍にも、みんなにも、これ以上迷惑かけられないから…ごめんね。」


『な…っ、ちょ…っ、』



オレは、強制的に通話を切った。



考えなきゃ。


オレに出来る事。



ん?あれ?モサ男って、高校生だった?


えっ?


いや…人の年齢は、わかりづらい。


安堂に、確認だ。



それから?オレに出来る事は?


オレにしか、出来ない事は?


オレだから、出来る事…




1つしか、思い浮かばない。



でも…それが可能なのかどうか。


実行するのは、オレだけど…

その前に、いろんな人の協力が必要になる。


迷惑もかけちゃうかも…


でも…これしか思い浮かばない。




*****




「……だから!それだけ、訊きたかっただけだから! じゃあね。ありがとう。」



ホント、人の気持ちを逆撫でるの得意だよね。安堂は。


一方的に、通話を切る。


でもまあ、これでモサ男が、向川に在籍してるという事が、わかった。


信じられないけど。


高校生だったんだ。



それと、もう1つ発見。


オレ、安堂と普通に話せてるよね。


話の内容によるのかもしれないけど、これも、進歩…なのかな?



「お話、終わりました?」



振り向くと、そこには、ジャージ姿の一条さんが。


何でジャージ?


理解するのに、時間がかかった。



「お取り込み中のようでしたので、先に着替えさせていただきました。」


「あっごめんなさい。」



左胸で、ネコ科の動物が跳ねてる。

ジャージ姿も、大人の男って雰囲気が出ていて、ある意味、羨ましい。


オレじゃ、こうはならないな。



「愛さま?如何がなされましたか?」


「…うん。何でもない。 ぁ…それより、" さま "は、やめようよ。それと、敬語も。何だか、こっちが、恐縮しちゃって…。」



ちょと驚いた顔してたけど、直ぐに了承してくれた。



「それと…一条さんに、相談があるんだけど…」


「わかりました。それじゃ…座りましょ うか?」



一条さんに促されて、ソファに座った。


それから、オレは、藍が置かれてる状況、それに対してのオレの考え、そして、やろうとしている内容を伝えた。



「……彼は、アナタの事を良くわかってるようですね。」


「…藍が、何?」


「いえ…それより、本当によろしいんですか? それを実行するとなると、アナタが……。」


「うん……いいんだ。藍の誤解が解ければ…それで。」



一条さんは、じっとオレの顔を見ていたけど、


「仕方ありませんね。」


と、溜め息混じりに呟き、苦笑した。



「ありがとう。」


「そんな事より、いつ実行するつもりですか?」


「早い方がいいから、明日かな。」


「明日…ですか。それでは、急いで準備しないと…。 すみません。電話一本かけさせて下さい。」


と、席を立とうとしたので、


「いいよ。ここで。オレも、かけるし。」


と、携帯を取り出しながら、座るように促した。



「はい。…すみません。」


と、ジャージのポケットから携帯を取り出し、操作し始めた。



「オレだ。龍児だ。明日、1つ頼まれてくれねぇか?」



だ…誰?



ハッ……オレもかけなきゃ。


隣の内容も、気になりつつ、応援を頼めそうなあの人に、電話をかけた。

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