好きだからこそ 6
「大した事じゃないんだが……愛には、黙っておいて欲しい。じゃねぇと、アイツまた、自分の事は、後回しにしちまうからな。」
「…かしこまりました。」
オレの返事を聞くと、制服のスラックスのポケットから自分の携帯を取りだし、何やら操作し始めた。
「オレらの高校の学校関係者しか閲覧出来ないサイトがあるんだけど…」
そう切り出してから、オレに携帯の画面を見せた。
「んで、ここ。」
指差した所は、みんなのつぶやきというコーナーだった。
スクロールしながら、読み進めていくと…
何だ?これは……?
紫津木さまと愛の関係を下品な言葉で、綴られている。
その中で、愛は、男娼扱い。
紫津木さまは、買春行為を繰り返す、節操なしのような書かれ方だ。
中には、夜道には気を付けろと、脅しの文句もあった。
「オレは、こういうの慣れてるからいいけど、愛は、耐えられないだろ?」
「…そうですね…。この内容から言って、同一人物でしょうか? だとしたら、校内に犯人がいる事に。」
「かもな。……まあ…面は、割れてるんだし、注意しとくよ。」
「……理由は、申し上げられないのですが、
実は今、愛さまは、私のマンションで暮らしております。」
一瞬、驚いたように目を見開くと、直ぐに切なそうな表情になり、こう呟いた。
「一条さんなら安心です。」
……ぇ?
「アンタなら、傍にいる愛も、ハラハラしないで済むかもしれない。」
「……紫津木さま?」
「オレは、アイツの事を守ってるつもりでも、結果的には、心配ばかりかけちまってる。」
「…愛さまが心配なさるのは、アナタを愛してるからでしょ?」
どうした?いつも強気の紫津木藍。
それだけ、今回の一連の事件が、堪えてるという事か……?
しょうがない。少し荒療治だが…
「私と一緒に暮らしていて、本当に安心ですか?」
「……?」
「昨日も、一緒にベッドで寝ました。」
「何が言いたい?」
「一緒に寝て、私が愛さまに手を出さない_とでも?」
彼の瞳を見据えて、問いかけると、
瞳の奥が、ギラッと光ったのが分った。
「一条さんは、愛のことが好きなんですよね? まあ…あえて種類は、訊きませんが。
だから、アイツのこと守ってくれるんですよね? だったら、たとえそれが、ベッドの中だとしても、アイツを傷付けるようなマネは、しないはずだ。」
参った……。
逆に、こっちが釘を刺されてしまった。
「恐れ入ります。 それでは、2つ目の要件ですが…」
「ちょと待った。その前に…、お互い、腹の探り合いは、止めようぜ。その為にも…、」
考える素振りをみせながら、コーヒーを一口飲んで、テーブルに置いた。
「一条さん、下の名前は?」
「龍児ですが。」
「じゃぁ、龍児さんね。オレのことは、藍でいいよ。まだ、呼ばれ慣れてねぇけど、愛の身内だから、特別。それから、敬語は禁止。OK?」
畳み掛けるように言われ、思わず頷いてしまった。
「よし。それじゃ2件目は?」
昨夜、風呂から上がってからの出来事を順を追って説明した。
勿論、その時のオレの気持ちは、除いて。
彼は、両膝に両肘をつき、顔を覆っていたので、その表情までは読み取れなかった。
説明し終わった後も何か考えていたようで、暫くその姿勢のままだったが、
何か閃いたのか、急に上体を起こすと、オレに詰め寄ってきた。
「風呂に入る前、何着てた?」
「入る前…ですか?」
予想もしてなかった質問に、戸惑ってしまい、答えを探すのに時間がかかった。
「確か…スーツを着ていたのですが、上着とネクタイは外していたので、Yシャツとスラックスだったと思います。」
そう答えると、彼はさらに詰め寄って、オレの下半身に手を伸ばしてきた。
「…ちょっ…何を…?」
「つー事は、これを風呂場で外したんだよな?」
「は?」
彼の手元を見ると、ベルトのバックルを掴んでいた。
はぁ…ベルトの事か。
「そうですが。」
「だとしたら、愛が外す音を聞いていた可能性があるな。」
「この音が、何か…?」
オレの問に彼は、視線を合わせ、しっかり見据えて話し始めた。
「愛の身体を好き放題にしてきた奴らは、当然、愛の前でベルトを外して、パンツを脱いだはずだよな。」
「まあ…そうでしょうね。」
「つまり、奴らがベルトを外す。イコール奴らに襲われる合図みたいなもの。そんなふうに、愛が認識してるとしたら?」
「……脅えて当然ですね。」
「だから、これからは、それを外す時は、音が出ないように、細心の注意を払って欲しい。」
「……わかりました。」
「それから…手を繋いで寝たって言ったよね?龍児さん。」
きたか…。
やはり…オレの気持ちに気づいてるのか…?
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