好きだからこそ 3


一条龍児side



ああっ!……クソッ!


何やってんだ?…オレは…。



自分の気持ちを鎮めるように、頭からシャワーを浴びる。



『私と一緒に、息子を育てて欲しい。』



オレは、あの日から自分の感情を封印した。


なのに、一週間前、愛と再会してから…

オレの気持ちは、揺さぶられっぱなしだ。


全く。REDMOONのリュウが、聞いて呆れるな。



最後に冷水で顔の熱を冷まし、浴室を出た。


洗面台の上に置いておいた眼鏡をかけ、タオルで身体の水分を拭く。


頭の中に浮かぶ許されない想いを打ち消すように、ドライヤーで髪を乾かし、用意していた部屋着代わりのスウエットを着た。



愛は、もう寝てるだろうか…。


フゥ…


『家族同然』の一条さんだろ?



脱衣所の扉のノブに手をかけ、開けた瞬間、

何かに躓いて廊下に転がるように飛び出た。


直ぐに振り向き、何に躓いたのか確認する。



なっ!



オレは、自分の目を疑った。



愛?!



何故こんな…?



愛は、膝を抱えて顔を埋めていた。



それよりも、どうした?全く動かない。



恐る恐る手を伸ばしてみる。


オレの手が肩に触れた瞬間、

ビクッ!と、身体が揺れ、と同時に上げた顔は、酷く脅えていて…



「……愛さま? いかがなされましたか?」


と、声をかけると、安心したように表情を崩し、オレに飛びついてきた。


意表を突かれたオレは、体勢を崩し、廊下に尻もちをついてしまった。


腕の中で震えている愛の髪を撫でながら、

いったい、何があったのか?

ひとり、もんもんと考えた。



愛の震えがおさまった頃、そっと声をかけてみた。



「ベッドに行きましょうか? ここでは、身体が冷えてしまいます。」



愛は、掴んでいたオレの服をギュッと握りしめると、オレの顔を見上げて、こんな事を言いやがった。



「…一緒に寝てくれる?」



そんな涙目で、顔を赤らめながら強請っている事は、自覚なんて無いのだろう。


オレは、ひとつ深呼吸してから愛に向き直り、家族同然の一条さんとしての顔を必死に思い出した。



「…勿論です。立てますか?」



俯きながら、首を横に振る愛にそっと手を貸し、抱き起こした。


足腰に全く力が入って無い事を確認したので、そのまま横抱きにして、寝室の扉をあけた。


寝室に入ると、オレの首に手を回している愛の腕がピクッと反応する。


オレは、気にせずそのままベッドに寝かせ、一旦身体を離そうとしたところ、愛の手がオレのスウエットを掴んだ。



「愛さま?」


「申し訳ないんだけど…一条さんの顔が判別出来る位の明るさにして欲しいんだ。」


「構いませんよ。」



愛にスウエットを掴ませたまま、ベッドサイドにあるリモコンで、下から2番目の暗さに調節した。



「私の顔は、わかりますか?」


「うん…ありがとう。」



礼を口にすると安心したのか、スウエットから手を離し、目を閉じた。


オレもそのまま横になって小さく息を吐き、眠ろうとした瞬間、愛が大きな声を出した。



「ぁ…あの!自分から誘っておいてなんですけど…オレ…怖いんです!」


「え…怖い?ですか?」


「何で怖いのか、訊かないで下さいね。」



ぁ…



「隣に居るのは一条さんて、わかってるんだけど…。 それで…あの…オレが眠るまで、手を握ってて欲しいんだ。いい大人なのに、恥ずかしいけど…。」


「これでいいですか?」



愛の手を軽く握ってやると、安心したように微笑んで、オレの肩に額を預けるように眠ってしまった。


以前、愛の彼の事を『修行僧のようだ』と形容したが、正しくそうだな。尊敬に値する。



明日、会ってみるか。何か打開策があるのかもしれない。

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