別れの準備期間  14



男女のカップルが写っていた。


男性に肩を抱かれて、幸せそうに微笑む女性と、それとは対照的に、カメラを睨むように立ってる男性。


銀色の髪にピアス…

昔の映像でよく見た特攻服のようなものを着てる、この人……、一条さんだ。


それじゃ、隣の清楚なワンピースを着てる女性は?



これ……、母さんだ……。



母さんが亡くなったのは、オレを産んで直ぐって聞いてるから、この写真は、20年以上経ってる事になる。


誰だよ。一条さんが28歳だって言ったのは。


母さんも、若い…。


幸せそうだね…母さん。



どう見ても、つきあってたんだよね…


オレが、一条さんから聞いたのは、母さんが初恋の相手だったと言う事。


オレを通して、母さんを見ているような気がしたから、一条さんを避けるようになったんだ。



2人……つきあってたんだ。


でも…何で別れちゃったんだろ…?



「愛さま?どちらにいらっしゃるのですか?」



うわっやばっ!



あっ嘘…!


写真立ては、オレの手から滑り落ち、床にそのまま落ちてしまった。


幸い絨毯だったため、硝子が割れる事は、無かった。


その事に安堵し、拾い上げようとしゃがんだ時、背後から声をかけられてしまった。



「こちらにいらしたんですか? 明かりも点けずに、何を_、」



オレの手元を見て、言葉を失ったようだ。



「ごめんなさい!……勝手に…」



恐る恐る顔を上げると、廊下の逆光で、その表情までは、読み取れなかった。



「……ご覧になったんですか。……全然構いませんよ。昔の話です…。」



この話、広げちゃいけないんだろうか。


いろいろ訊いてみたいけど…



「気になりますか?」


え?



「その写真は、私が15、彼女が18の頃で…社長とご結婚される頃には、とっくに終わっていました。 お二人は、本当に愛し合っていました。 何も、ご心配される事はありませんよ。」



そうか…そうだよね…


普通、子供ならそっちが気になるんだよね…きっと…。


藍と出会う前のオレなら、気になってたと思う。


けど…今は違う。



何で、2人は別れちゃったの?


そして今でも、母さんの事、愛してるの?



「…愛さま?どうかされ…」



ん?一条さん?



「さ…お風呂が、冷めてしまいますよ。」



そう促して、写真立てを机に伏せた。


それは、これ以上詮索されたくないという、意思表示にも見えた。




*****




翌日の日曜日、直ぐに帰る気になれず、ダラダラとリビングで過ごしていた。


体育座りで膝を抱え込み、考え込んでしまう。


元々、いくつもいっぺんになんて、考えられない性分。


しかもネガティブ思考だし…自分でも、わかってる。



昨日、安堂から聞いたことは、知らないフリしてる方がいいんだろうな…。



はあ…



それから…一条さんの事も…



「愛さま?今日は、どうなさいますか? 私も、休みを頂いておりますので、何かございましたら、おつきあいできますが?」


「え?ぁ……うん…。あのさ……今日も、泊まっていい?」



膝を抱えたまま、一条さんを見上げると、



「……っ!ゎ…私は、構いませんが…」



あれ……今、一瞬、顔が赤くなったような気がしたけど…


ぁ…まさか


「風邪引いちゃった?オレが昨日、ベッドを占領しちゃったから。」


「いえ…大丈夫です。」


「今日は、一緒に寝よう?」


「ぃ…いえ!本当に大丈夫です。」



さっきより赤くなった。ヤバいかも。



「じゃ、オレがこっちに寝るよ。 一条さんに風邪引かれたら、オレ、どうしたらいいか、わかんないもん。」


「わかりました!……一緒に…寝ましょ…。」


「うん。ありがとう。」


と、笑顔でお礼を言うと



「天然ですか…」


と、消え入りそうな声で呟いて、苦笑していた。



「…あっ…これから、オレのマンションつきあってもらっていい? 着替えもしたいし。」


「かしこまりました。」



いつもの一条さんに戻った…かな?




*****




オレのマンションの地下駐車場に車を駐めてもらってから、玄関ホールに上がり、郵便受けを開けてみた。


ただ単なる習慣だったのだけど…



れ?…何か入ってる。



オレ宛で、送り主の名前が無い。

住所も書いてないので、直接投函したのだろうか。


怖い。寒気がしてきた。



「何かありましたか?」



一条さんが、背後から、オレの手元を覗き込んできた。



「これなんだけど…」



振り返って、手紙を渡した。



「開けてみてよろしいですか?」



頷いてから、「気をつけてね。」と、一条さんの手元に触れて動きを止めた。



「わかってます。」と、柔らかく微笑んでから、封筒を慎重に開封すると、

一枚の紙が入っていた。


2人で同時に中身を読むと…、



『お前の王子様に恥をかかされた。覚悟しておけ。』


と、手書きの殴りつけたような文字で、書かれていて、恐怖のあまり、一条さんの腕を握りしめていた。

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