別れの準備期間 11



「…だとしても、アンタには、もう関係ない。」



オレは、震える手を抑え、フォークを拾うと、自分の身体を預けるように、イスに座った。


ダメだ。とてもじゃないけど、新しいフォークなんて、取りにいけない。


こんな姿、目の前の奴に一番見られたくなかった。


平常心で、なんて事無い感じで、余裕余裕って感じに、かわしたかった。



「でも、今カレ君は、そうは思ってないみたいだよ。」


「…え?」



オレの反応を見て、クスッ と、小さく笑うと、席を立ってカウンターまで行ってしまった。


それから、フォークをヒラヒラさせながら戻ってきて、「どうぞ。」とオレの目の前に置いた。


安堂は、「落としたのは、オレの責任だからね。」と、頬づえをつきながら、笑ってみせた。


何を考えてるのかわからない。



「…藍が…何だって?」


「…ああ…彼ね、オレの顔見るなり、掴みかかってきて、『テメェのせいで、愛は未だに苦しんでんだよ!』て、すごまれたから。」



ぁ……


それは、たぶん…オレじゃなくて…

藍自身…。


オレよりずっと…

藍の方が、辛い想いをしてる。



「で?…何で藍と一緒だったの?」


「彼の方から、オレに会いたいって、熱烈ラブコールが、あったんだよねぇ。」



我慢しろ。

話を訊き出すまでだ。



「犯人、オレの客だったんだろ?」


「…ぇ…?」


「現住所、教えてくれ_て、オレの所に来て。」


「ちょっ…ちょっと待って。何で、藍がアンタの連絡先知ってるの?」


「葵さんのPCで調べたって、言ってたかな?」


「……ああ。」



あの時…一緒に調べたのかな?……凄いな…藍。



「でも、今カレ君、凄いよね。」



一瞬、口に出したかな?と思って、焦った。



「犯人が来た日付と時間まで、覚えてたんだぜ? まあ…そのおかげで、目ぼしがついたんだけど。」



そうだったんだ…。

ホント…藍には、敵わないな。



「……客のデータ…残してたんだ…。」


「…客とは、ネットでやり取りしてたけど、登録された住所が、架空のものでないか、ちゃんと調べた上で取り引きしてたから。

客の連絡先、利用した時間、その他諸々、データは、残してあるよ。

ま、きちんと下調べは、してたよ。それが、オレの唯一の正義。」


「あんな酷いことしておいて、よく言うね。」


「まあ…そう言うなよ。」


と、二ヘラッと笑ってみせた。


本当に反省してんのか?と、疑いたくなる。



「住所、教えただけ?」



念の為に訊いてみただけだったのに…



「いや?…オレを同行させなきゃ、教えないって言った。」


「ぇ…?…一緒に行ったの?」


「行ったよ。オレにだって、見届ける権利はあるからね。」



コイツに訊くのは、癪だったけど、電話での藍の様子が気になってたから、訊いてみた。



「……円満に解決したの?危ない場面とか、無かった?」


「んー。」


と、首を捻ってから、オレの方に向き直ると



「パンケーキ食べなくていいの? この話すると、食欲無くなると思うから。」



さらに…?…ですか?





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