第2話 別れの準備期間 1


どれぐらい経ったのだろうか…


時間の感覚も無い



コンコンコン



遠慮がちな、ノックの音。


誰…?


ていうか、オレ、まだ人に会える状態じゃない。


顔も洗ってないし…



再びノックの音。そして…



「…愛さま?一条です。」



え?…一条さん?



「…少し、よろしいですか?」


「ぇ…ぁ…はい…どうぞ。」



失礼かと思ったけど、布団を被ったまま返事をした。


だって、こんな顔…一条さんにだってムリ。



「失礼します。」



一条さんが、部屋に入って来た。



「こんな姿で、ごめんなさい。ちょっとまだ、調子が悪くて…。」


「いえ…他のお二人が、買い出しに行かれたものですから、私は、愛さまの様子を伺いに。」



そうなんだ…買い物行っちゃったんだ…。



「藍…何か言ってなかった?」


「…それが…紫津木さまが、愛さまの様子を見に行くと、暴れられまして…」


「…ぇ…?何で?」


「葵さまが、まだ早いとお止めしたからだと思います。」



そうなんだ…。


オレが泣いてたの…バレてたのかな。



「見かねて、私が、買い出しに行かれては?と、提案させて頂きました。」



声色からして、なんか楽しそうだ。



「何か…楽しい事でもあったの?」


「いえ…ただ…あのお二人のやり取りが、面白くて、つい笑ってしまいました。」


「ああ。」



ホント…目に浮かぶようだ。



「一条さん。1つ、訊いてもいい?」


「はい。何でしょう?」


「元ヤンて噂。ホント?」



何を訊いてるんだ?とも思うけど、何でも良かったんだ。


なるべく遠い話題で、気を散らしたかった。



少しの沈黙。


それから…一条さんにしては珍しい、ため息。 小さかったけど。



「愛さま?」



ごめんなさい。変な事訊いて。



「何処からお知りになったか分かりませんが、髪を銀色に染めたり、片耳にピアスを3つ開けていたり、毎日喧嘩に明け暮れていたり、族に入っていたり、そこのリーダーだったりした事が元ヤンというのなら、その噂は、本当ですね。」



ぇ…と…



「愛さま? 何か仰って頂かないと。」


「…あ…っ…ごめん。その…父さんは、知ってるの?」


「ご存知ですよ。」


「そっか…ごめんなさい。…過去を気軽に訊いてしまった。」


「…いえ。」

 


はぁ…オレって最低。


今の自分に触れて欲しくなくて、一条さんの過去を抉ってしまった。



ホント…サイテー



やばっ…鼻水垂れてきた。


泣いてるって、バレちゃう…。



「…泣いていらっしゃるのですか?」



鼻水啜ったの聞こえた?



その時、ベッドの片側が沈んだ。



「…愛さま?」



布団越しに分かる手の感触。


やばい!見られる…!



「一条さんが優しいのは、オレが母さんに似てるから?」




一条さんの手が離れるのがわかった。



サイテーの上塗りだ…。






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