藍のアパートで…… 12


「無理無理無理無理、絶対無理!」


「怖いのか?」



オレは、藍の目を見つめて、首を何度も縦に振った。



「愛が、飛び降りるわけじゃないだろ? それとも、オレが信じられない?」



そんな自信たっぷりに言われても…ね…。



「ああっ面倒くせぇ。」



ぇ…



藍はオレを抱えたまま、梯子の降り口に立った。


下を覗くと…


うわっ…高!


どれ位あるかな…2m50は、あるよね…


藍は、屈んではいるけど180弱はあるだろうし…

そうすると、合計4メー…、



「愛!」



強めに呼ばれて、反射的に藍を見ると、

突然、唇を塞がれた。


そのまま、藍の舌が侵入してきて

上顎をなぞられた。



「……んっ…」



油断していたせいもあり、甘い声がオレから漏れる。 

 

と、同時に心臓だけではなく、内臓全部がフワッと浮いた…気がした。

 



ドサッ




ん?




そしてゆっくりと、唇が離れていく…。



「な?平気だったろ?」



へ?



ゆっくり辺りを見回すと、



リビングだ…

 


なっ…だ…っ…騙し討ちぃ~?!

 

キスしてる間に、飛び降りるって、



「ちゃんと、下見て降りてよ!危ないじゃん!」


「はいはい。」



軽くあしらわれてる気がするのは、

決して、気のせいじゃないと思う。



その後は、オレに触れる事はなく、

紳士的な対応だった。


脱衣場で、オレを下ろした後は、

入浴している間に、タオルや着替えを用意しておいてくれて、

風呂から上がって、リビングに入ると、

夕飯のセッティングがしてあった。


メニューは、オムレツ。

ふわとろだ。

 

何も無かったから、こんなので悪いな。て、言ってたけど、

めっちゃおいしかった。


食後、ソファに座ってコーヒーを飲みながらテレビを観た。


隣に座ってる藍は、テレビじゃなくて、オレばかり見てる。


「何?」と、照れ隠しに突っ慳貪に訊くと、


「萌袖にマグカップ…いいね。」


と、オレの目を真っ直ぐに見て呟いた。


藍が壊れちゃった…。


続けて、「泊まってくだろ?」と、訊いてきたけど、

ほぼ確定みたいな…一応訊いておく的な言い方だった。


そんな些細なことが、妙に嬉しくて、

緩んでしまいそうな口元を

マグカップで隠しながら頷いた。


日付が変わりそうな時間に、お風呂に入りに行った藍。


寝てていいって、言われたけど、

落ち着かなくてベッドに腰掛けて、待っていた。


暫くすると、浴室の扉が閉まる音がして、足音が聞こえてきたので、

オレは、床を這いながら、そっと梯子の降り口まで行って、リビングを見下ろしたら、

風呂上がりの藍が、肩に掛けたバスタオルで髪をワシャワシャ拭いているところだった。 


まだ汗が引いていないのか、上半身裸の藍…。

 

なんでしょ…このドキドキ…。 


この背徳の匂いがする高揚…


藍のこんな姿は、家で見慣れてるはずなのに、

こんなに、ドキドキするのは、盗み見てるから?

 

オレと居ない時、どんな風に過ごしているのか…


そんな姿を垣間見てるような…

 

あっ…ここに来てからずっと、いつにも増して胸の高鳴りが激しく、なかなか鳴り止まなかった。


それは、藍のプライベート空間に入れてもらえたから…?



「…愛?」



うっ…やばっ…見つかった。   


藍の口角が上がって、一言。



「…スケベ。」




*****




結局、藍に見つかった後は、

おとなしくベッドに上がり、布団に潜り込んだ。

 


でも、眠れない!


うるさい心臓が、寝かせてくれない。


もう寝るだけじゃん…

 

いつものように、添い寝だけだから。



布団から、顔半分出して天井を眺めた。


藍の匂いがする…


ドキドキするけど、安心する…


大好きな匂い…



オレは、その大好きな匂いに包まれながら、いつの間にか眠ってしまっていた。




キシッ




ん…?


ベッドの片方が沈む感覚で、目が覚めた。



「…ぁ…悪い。起こしたな。」


「…あ…お…?」



寝起きで焦点が定まらず、目を擦りながら、藍を見た。


間接照明の、暖かなオレンジ色の光の中に、藍の顔が浮かび上がっていて



「…藍…キレイ…」


「…寝ぼけてんのか?」


と、苦笑した。



「それより…部屋、暗くないか?」


「?…うん。」


「そっか…なら、いい。」


「藍?」


「ん?」


「腕枕して。」


「………っ!!」


「…藍?」


「…あ?…ああ…いいぜ。ほら。」



ベッドとオレの間に、手を滑り込ませて、抱き寄せてくれた。



「…同じ匂いだな。」



オレの髪に顔を埋めて囁いた。



「ぁ…ごめ…勝手に借りちゃった。」


「そういう意味じゃねぇ。」


「…え?」


「黙って、嗅がせてろ。」


「ぇ…ぁ…」



いつもより、密着度が激しい…!


今更だけど,緊張してきた…!



「ぁ…明日、本当にデートしてくれるの?」


「…ああ。」


「1日?」


「1日。」


「1日、紫津木藍を独り占め出来るの?」


「…その言い方…よせ。」


「ごめん…ぁ…ネックレス…ありがとう。」


「…おお。」


「なんか…プ…プロポーズされたみたいで

…ドキドキしちゃった……なんちゃって…」


「……」


「……」


「……」


「…あ…お?」



斜め上にある藍の顔を覗くと、

呼吸が一定のリズムを刻んでいた。



寝ちゃったのか…



今の台詞…結構、勇気が必要だったんだぞ。



まぁ…いいか。



オレも、藍の胸に顔をすりすりしてから、眠りについた。



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