藍のアパートで…… 10


「…そうだな。」



重たい沈黙の後、最初に発せられた言葉が、それだった。

   


…ぇ…?


ま…そりゃ…そっか…そう…だよね…


余計な事訊いて、当前の答えが返ってきて…


なのに、何で?…何で、視界が滲む?



「…そう…」



やっと絞り出した声。


オレは、今の感情を知られたくなくて、背中を向けて、布団を頭から被った。


今までのオレなら、こんな事訊かなかった。


つきあってた女性がいたことぐらい…わかってたことじゃん。


それをオレも受け入れてたんじゃないの?


オレ…我が儘になったのかな…?


藍の全てが、欲しくなっちゃったんだ…



女性達は、当たり前のように抱いてもらえてたんだよね…


はぁ…オレって最低。


ちょっと抜いてもらっただけで…


どんだけ独占欲強いんだよ。



「なあ…何か勘違いしてねぇか?」


「うん…そうだね。もう我が儘言わないし…変な事も訊かない…ね。」


と、背中を向けたまま、精一杯の明るい声で答えた。

 


「愛?」

 


そんな優しい声で呼ばないで。

 


「…こっち向けよ。」



向ける訳ないじゃん。


こんな独占欲丸出しの顔なんて… 



背後で、小さくため息をついたのがわかった。


藍にため息をつかせてしまった自分が嫌になっていたら


ふわっと髪を撫でられた。


大きな手と温かな体温に、また涙が溢れそうになる。



「それじゃ…そのままで聞いてくれ。

前にも言ったと思うけど、愛はオレに、何でも訊いてくれて、構わないんだからな。 遠慮なんかすんな。我が儘も、むしろ、もっと言って欲しいくらいだ。」



藍…

  


「ただ…正直…、この話に関しては、触れたくなかった…。 オレ…お前に会うまでは、女の事、性欲処理の対象にしか見てなかった。 だから…たぶん…オレは…女達の事…

道具を見るような目で…見てたと…思う…。」


 

いや…違っ…


それは違う!

 

藍は、アイツらとは違う…!



「…だから…女達が見てきたオレの表情なんて…お前は知らないでいいんだ。」



ああ…オレは、藍に何て事言わせてんだ。

自分の独占欲が強いせいで、ごめんなさい…。



でも…でも違うよ藍。



オレは、背後から藍を包み込むように、そっと抱きしめた。 


藍は、ビックリしたようで、ピクリと肩を揺らした。


なんか、それすら愛しい。



「愛…?どうした?」


「藍が、全然わかってないからでしょ。」


「…何…言ってんだ?」


「藍は、女の子達に、そんな酷い事してないよ。」


「何言って…、」



振り返ろうとした藍を阻むように、藍の肩に顎をのせて、話しを続けた。



「そりゃ…現場見てた訳じゃないけど…

でも、わかるんだ。 今日だって、藍の事悪く言う人なんて、1人もいなかった。

藍が言うような事やってるとしたら、悪い噂だってあるだろうし…、それにね、藍を見るみんなの目を見たら、わかるよ。 藍を嫌ってる人なんて、1人もいないって。」


「だが、オレは…!」


「アイツらとは、違うよ!オレを弄んできたアイツらとは違う!」



藍の肩が、僅かに動いた。


やっぱり…ずっと苦しんでたんだ…。


自分も、同じじゃないか?…て。



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