藍のアパートで…… 9


暫く、目を見開いたまんまだったけど、急に我に返ったのか、オレの肩を掴むと勢いよく抱き起こして、力強く抱きしめてきた。


それが…息が出来ないんじゃないか?と思うくらい…



「…藍?…苦しいよ…」


「馬鹿!」



ぇ…?



「お前って…ホント…バカ…。」


「…藍?」


「お前が、オレにくれる物は、みんな愛おしいんだ…だから、そんな言い方すんな。それに…」


「…それに?」



その問いには、答えてくれず、ただただ抱きしめたまま…


漸く口を開いた藍は、



「とにかく、オレが、これからもずっと、愛のこと守ってやる。だから、オレの傍を離れんなよ。」


 

オレが頷くと、腕の力を弱めてくれて、藍の顔を見ることができた。


…なんで、そんな切なそうな顔してんの?

 


藍…?  


何気に視線を下ろして行くと、


きつく抱きしめられていたせいで、

オレのネックレスの跡が、くっきりと藍の胸についていた。


少し可笑しく思っていると、今更ながら、あることに気づいてしまった。


だってオレは、全身裸だけど、藍は、結局、オレに言われて脱いだ上半身だけ…



「…藍、ごめん。オレ…自分ばっかり…」



そう思って、藍に手を伸ばしたけど、

藍に手首を掴まれて、阻まれてしまった。



「藍?」


「オレは、いいから。」


「でも…、」


「愛にそんな事させたら、最後までヤりたくなるから。」


「オレは、いいよ。」


「…ダメだ。」


「…どうして?」


「…準備してないから。」


「何を?」


「…ゴム…とか? それに…今日は、愛のこと、思いっきり甘やかしてぇんだ。」



何か…上手くはぐらかされた気がする。



「風呂…入るだろ?」



オレが頷くと、クシャッと笑って、



「この部屋の難点は、風呂場までお姫様抱っこしてやれねぇとこかな。」


 

ぇ…


何だろ…なんか…胸がチリチリしてきて…


「風呂入れてくる」と言って、立ち上がった藍の腕を掴んでしまった。



「…愛?…どした?」



ん?どした?オレ…?


チリチリだけじゃなくて、モヤモヤもしてきて…


 

「あ…」



藍は、オレをベッドに寝かせて、布団もかけてくれた。



「風邪引くからな。」



そう呟いて、立ち上がろうとした時、再び藍の腕を掴んでしまうオレ。



「本当に、どうした?」



愛おしそうに、オレを見てくれる藍。

 

それだけで十分なはずなのに、このモヤモヤは…



「…最後に、藍が抱いた女性って、どんな人?」

  

「あ?」


 

オレ、何訊いてんだ?

本当に、馬鹿じゃないの?



「その人も、ここで抱いたの?」 

  


うわぁ…っ…何…?


でも、堰を切ったように止まらなくて


 

「ホテル?ホテルで抱いたなら、お風呂までお姫様抱っこしたの?」



オレ…何訊いて…   

 

でも…一番気になっていた疑問が、頭に浮かんだ。

   

浮かんだだけなのに、涙が滲んできた。



「その人は…オレの知らない…藍の表情を…知ってる…の?」

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