藍のアパートで…… 6


「中学入る前に死んじゃったんだけど…その時の形見分けで…これがいいって…貰ったんだ…」



少しずつ、自分の過去を話してくれる。


出会った頃、これ以上入ってくるなと、一線を引かれた。


その頃の事を考えると、飛び上がりたいくらいに嬉しい。



「オレの名前、ばあちゃんが命名したんだ」


「…えっ?」


「オレの瞳の色を見て、ピンときたらしい。ほら、さっき見たろ?生まれたばっかの時は、もうちょっと濃かったから…。 藍を“あお”と読ませるのは、好きだった朝ドラのタイトルから_だってさ」


「へぇ……」


話慣れてないから、落ち着かないのかな?

ちょっとぶっきらぼうな、その話し方も

可愛いと思ってしまう。



「今は、グレーが混じった水色だけどな……」


 

うん…オレ…藍の瞳が


「…好き」


「は?」


「…え?」



藍の瞳は、大きく見開かれ、固まっている。



あ…


そこで初めて、自分が発した言葉の足りなさに気づいた。



「あ…いや…違っ…あっ…違わないけど…違うんです!」


「…何が?」


と、大きな声で笑い出した。



えっ…


一瞬、戸惑ってしまったけど、その屈託の無い笑顔に見惚れてしまう。


こんなに笑ってるの…貴重かも…

 


「お前って、スゲェな」

 

「な…何が?」


「…敵わねぇよ」



いつも敵わないと思ってるのは、オレの方で、何を指して言ってるのか、わからない。



「わからなくていいよ」



そう言って、オレの髪にキスを落とした。


何考えてるのか、バレバレなのかな?


それよりも、藍にキスされた甘い雰囲気に、まだ心臓がついていけなくて

 

「藍は…自分の名前、好きじゃないの?」


なんて、質問をしてしまった。



「は?何で、そうなんの?」 


「北本君が…」

  

「ああ…あいつか。…嫌いじゃねぇよ。むしろ好き」


「じゃ、何で?」


「んー。…オレの名前が、瞳の色からついたのは、話したろ?

ガキの頃は、名前呼ばれる度に、責められてる気がして嫌だった。 でも、名前は気に入ってたから…、好きなヤツが出来たら、そいつにだけ、許そうと思ったんだ」



真っ直ぐオレを見据えている。


うわっ…こらっ…鎮まれ、心臓…!


そんなオレを見て、柔らかくクスッと笑うと、


「そんな愛に、オレからプレゼントがあります」


「え?…プレゼント?」



枕元に置いてあったリュックの中から、

綺麗にラッピングされている長方形の箱を取り出して、オレにくれた。



「開けていいの?」



手で、どうぞと、してくれたので、綺麗な水色のリボンを解いて開けてみた。



あっ…これ…

  


「欲しかったんだろ?」



それは、手芸部の店で見た、天使のネックレスだった。



「う…うん。…でも何で?」


「欲しそうな顔してたろ?」



う…っ


そんなに顔に出てたんだ…



手元の天使を見ると、本当に綺麗で…

藍のオレを包み込むような優しい表情を連想させ、口元が緩んでしまう。



あれ? プレートに何か掘ってある。


最後の行の to Ai from Ao

は、読めるけど…



「I will protect you forever 

オレが、永遠に君を守る」



そう言って、オレの手の甲にキスをした。

  


ぁ…っ…


真っ直ぐにオレを見ている瞳から、目が逸らせない。


手の甲に感じる柔らかな感触…


ちょっとちょっと待て。落ち着けオレ…!


でも…落ち着こうとしても、身体中の血液が言うこと聞いてくれなくて…


顔なんか多分、沸騰してると思うし…


藍は、こんなオレの考えてる事なんか、全部お見通しなんだろうか。



「つけようか?」



いっぱいいっぱいのオレは、頷くので精一杯


藍は、そんなオレをフォローしてくれて、

オレの手からネックレスを受け取ると、後ろを向いたオレの首につけてくれた。


藍の手が、鳩尾の辺りまで伸びてきて、

そのまま、抱きすくめられる。



「あ…藍?」


「…華奢だな」



オレの肩に顎をのせていて…声が…声が…くすぐったい。



「御守り代わりにいつもつけてて。

お前のこと…心配だから…」



藍…



「ありがとう…嬉しい」


 

藍の手に自分の手をそっと重ねた…。


恥ずかしくて言えない気持ちをのせて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る