藍のアパートで…… 5


「んな事気にしてたのか…バカだな。」



そう囁いて、オレの髪にキスを落とした。


低めの声が、藍の胸から響いて…

オレの心にも響いてきた…。



「なあ…ロフト見てみる?」


「え…ぁ…うん。」



思わず、反射的に返事してしまった。


だって…とっても艶っぽい目をしていたから…



藍に続いて立ち上がろうとしたら、足に力が入らずカクンとなってしまって…


藍がとっさに腕1本で支えてくれた。



「ぁ…ごめ…ありがとう。」


「おぶってやるか?」


「え?」


「流石に、姫抱きでは上がれないからな。」



階段…というより、梯子に近い。



「ぁ…大丈夫。ひとりで歩ける。」




梯子の手すりを両手で握ると、

藍は、オレの背後から覆い被さるようにしてきて、オレの手に両手を重ねてきた。



「あ…藍?」


「落ちたら危ないだろ?」


「だ…大丈夫だよ…これぐらい…」


「いいから…上がれ。」



うっ……



藍の眼力に負けて、おずおずと上がり始める。


藍は、オレより少し下にいる。

そんな様子を見ると、本当に落ちたら受け止めようとしていることがわかる。


こんな些細なことでも幸せを感じてしまうオレ。


何だか恥ずかしくなって、足を早め上を目指した。



上に上がると、想像してた以上に広くて驚いた。


白いカバーのベッドと、床には小さな間接照明が、1つ置いてある。


高さは、オレの身長で、ギリ屈まなくていいけど…

藍を見ると…屈んでますね。かなり。



あれ…?



「さっき脱いだ制服は?」


「壁に埋め込み式の収納。」



藍が指した梯子の近くを見ると、壁に取っ手が。



ああ。なるほど。



そんな感じで、キョロキョロしているオレの横を通り過ぎ、

ベッドにドサッと座ると、ベッドヘッドの棚から1冊の本を取り出し、さっき見せてくれた写真を間に挟んでいた。


その本を棚に戻しつつ、

オレを見ながら、隣のスペースをトントンと叩いた。



多分…そこに座れって事何だろうけど…


急激に緊張してきたのは、オレの勘ぐり過ぎ?



オレは、恐る恐る身体1つ分位開けて、隣に座った。



「……ベッドに座るの…怖いか?」



え?



藍を見ると申し訳なさそうな顔をしている。



ああ、オレってホント馬鹿だ。



オレは、首がちぎれるんじゃないかと思うくらいに、横に振った。



そんなオレを見て、小さく笑ってくれる藍。


良かった…。



オレは、距離をつめながら、何気に棚の本を見た。

 

『新約聖書』と、書かれている。



オレの視線に気づいたのか、

「それ、ばあちゃんの形見」と、教えてくれた。

 


その表情は子供らしくて…藍のそんな姿に、なんだかホッとしてしまう自分がいた。

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