第3話 藍のアパートで…… 1


藍のアパートは、バイクで20分くらいの住宅街にあった。



「散らかってて悪いけど、適当に座ってて。」


「…うん。ありがとう。」



藍は、バイクのキーをローテーブルに放ると、片手でネクタイを緩めながら階段を上っていった。



え…?階段…?



階段の行き着く先をたどっていくと…


あ…ロフトだ。



玄関を入って直ぐ左側に、バス、トイレとキッチン

正面に8畳くらいのリビング。

キッチンの上が、ロフトになっていた。



黒い革張りのソファに座って、辺りを見渡す。



片付いている…というより、物が無い。


リビングには、このソファとローテーブル、テレビしか無い。


散らかっているというのは、無造作に置かれたこの雑誌達の事だろうか?


でも、それですらインテリア雑誌の表紙とかに見えてしまう。



「悪ィな。葵さんに、勉強しとけって言われて貰いっぱなしになってる、海外のファッション誌だ。」

   

「藍…。」



部屋着に着替えた彼が、そこに立っていた。


シンプルな白いTシャツを着ていて、楽そうな短パンを履いている。



そんな姿も、カッコよく見えてしまう。


恋人にいまだに見惚れるって、どんだけ~?


あれ?いやいや、どうした?オレ…


何、テンパってんの?



「どした?」


「ぁ…ぇ…は…初めて…初めて見た。藍の私服。」


「はあ?…そうだっけ?…つか、これ私服にカウントすんの?」


「うん……だって初めてだし…」



心臓の高鳴りを抑えるために、とりあえず話してみたけど…


ダメだ…全然鎮まらない。

 


「それじゃ、明日デートしようか?」


「え…っ?」


 

耳元に、息がかかったので、驚いて隣を見ると、いつの間にかソファに座っていて、背もたれに肘をつきながら、オレの髪を指に絡めている。



「で…でも明日、月曜日だし…夕方からになると、今日の疲れもあるから…」


こ…こんな近く…保ちません…!



「明日は、文化祭の代休。1日休みだから、その時、今日の私服のリベンジさせて。」

 


藍は、絡めていた指を後頭部にまわし、顔を近づけてきた…

 


「いいよね…」



ちょっ…



「ロ…ロフトなんだね。イメージと違ったな。」



「その話題、今触れなきゃダメ?」



藍は、息がかかるほどの距離で、

オレの唇を見つめながら呟いた。


 

「…はい。」



自分でもおかしいと思う。


なぜこんなに動揺してるのか。


だって今でも、こんなに心臓が激しくフル回転してるのに、

このまま、甘い雰囲気になったら…?



オレ…どうなっちゃうの?



紫津木は、ため息…というより、小さく息をついた…?

かと思ったら、距離を少しとって座り直し、両手で顔を覆ってしまった。


オレ…なんかマズい事でも言っただろうか…?    



「この部屋…母さんが選んだんだ。」



へっ…?


 

「正確には、2人で見て回ったんだけど…母さんが、この部屋気に入って…。」



その横顔は、切なそうな…それでいて懐かしんでるような…

今まで見たことがない、複雑な表情をしていた。



「そのロフトが気に入ったとかで、妙にはしゃいじゃって… 

オレのタッパじゃムリだつったんだけど、どうしてもここじゃなきゃダメなんだって…

まあ…元々そんな我を通す人じゃなかったから、オレの方が折れて。」



そこまで話すと、照れ笑いする藍。


 

「お母さんの事が、好きなんだね。」


「…まあ…否定はしねぇよ。散々苦労かけたから、今は、幸せになって欲しいと思ってる。」 


「苦労…て、やんちゃしてたとか?」

 

と、冗談っぽく訊いてみた。


でも、そんな訊き方をしてしまった事…直ぐに後悔した。



「…前に…両親が離婚したことは、話したよな…?」


「ぇ…うん。」


「…その原因…オレなんだ。」



ぇ…



藍は、遠くを見つめるように話し出した。




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