向川祭 15


「学校で何かあった?」



再び俯いてしまうオレ。


おもいっきり心配かけてる。


オレ……



「ねえ。藍…、」


「いらっしゃいませ。」



さっきの可愛らしい女性だ。


まだ立ったままだった藍は、そのまま振り返ってそのコと話し始めた。



「おっ…ミクちゃん。この間は、ごめんね。後で冷静になって思い出してみたら、オレ、大きな声出したりしてたよな。本当にごめん。」


「ぁ…いえ。いいんです。紫津木さんでも、取り乱すことって、あるんですね。」



そのコは、クスッと小さく笑った。


なんなんだ?藍も自然体で話してるし。



でも…


これが普通の恋人同士なのかな…


ぁ…カッコ悪い。


オレ…ヤキモチ妬いてる。



「今日は、どうされますか?」


「コーラ…ゼロ。」


「えっ?いいんですか?」


「めっちゃ喉乾いたから、解禁。でも、葵さんには内緒ね。」


「それじゃ、直ぐにお持ちしますね。」



またクスッと小さく笑うと、カウンターに向かって歩いていった。


漸く、真向かいに座った藍は、オレの顔を覗き込んできた。



「どうしたの?愛?」


「仲いいんだね。ああいうタイプのコ、好きなの?」



モヤモヤした気持ちを払拭したかっただけ。

こんな事訊きたかったわけじゃない。



「それって…ヤキモチ?」



ぁ…


馬鹿な事訊いた。


謝るつもりで藍の顔を見たら、

揶揄うような笑みを浮かべていた。



「めっちゃ嬉しい。」


「何、楽しそうに笑ってんの? オレの気も知らないで。」


「…どんな気持ちなの?」


「え…っ?」


「教えて? 知りたい。」


 

オレを包み込むような瞳で見つめられて…


ヤキモチを妬いていた自分が、ちっちゃく感じてしまう。



「なかなか自分の気持ちぶつけてくれないから… ヤキモチですら嬉しいんだよ。」



藍…



「あの…」


「お待たせしました。」

 


藍の前にグラスが置かれる。



「サンキュ」と、彼女の目を見て言うと、

「ごゆっくり」と、軽くお辞儀をしてから、彼女は下がっていった。



「悪ィ。ちょっと待って。」



藍は、ストローは差さずにグラスを手に取ると、そのまま飲み始めた。


よっぽど喉乾いてたんだな。



ごくごく飲んでる喉仏の動きに目を奪われた。


色っぽい…


アゴのラインから、汗が一滴伝って、喉仏まで流れている。


その全てに、心が奪われた。



「ふぅ。」



一気に飲み干した藍は、グラスを置くと、手の甲で口の端を拭った。


それですら、見入ってしまう。



「…愛?」



名前を呼ばれて、我に返る。


ヤバい…ずっと唇見てた…。



「どうした?やっぱ、学校で何かあったんじゃねぇのか?」


「…ぁ…うん。何か…ていうか…オレの心の問題だと思うんだけど…」



藍は、オレを真っ直ぐに見据えている。



「今日オレ…倒れちゃったよね。」


「ああ。…そうだな。」



一瞬で、切なそうな表情になった藍。


胸が、締めつけられる…。



「自分の事だけど、オレも驚いちゃって…

その… これからもあると思うんだ…こういうこと。」 

 


カフェラテのカップを両手で握りしめ、息を整えた。



「もう…心配かけたくない。 藍の…あんな辛そうな顔…見たくないんだ。」


「お前を好きになった時点で、覚悟してたよ。 だから…気にすんな。」



カフェラテのふわふわミルクを見つめながら話してたオレに、そんな優しい言葉が降りてきた。



「でもオレ…藍の辛そうな顔を見るのが辛くて……」


「…そっか……愛は、どうしたい?」



トラウマの事を話すだけでも涙がこぼれそうになるのに……


この先、やっていけるのかな…




でも、オレ…




「…藍と離れたくないと思うのは…オレの我が儘かな?」



藍は、驚いたように目を丸くした。


でも、何も応えてくれなくて…



「藍…?」


「あ…悪ィ。 カフェラテ…飲みな。」


「…うん。」



一口飲むと、温かくてホッとした。



全て飲み終わると




「今から、オレのアパートに来るか?」



「…っ?!」



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