向川祭 13



あれ?



ここ…どこ?



オレ…何してた?



ソファ…?


暗幕に囲まれてる室内…


あっ!! オレ、あのまま眠っちゃったんだ!


今、何時?!


ガバッと起き上がると、オレの上に、制服のジャケットが掛けてあった事に気づく。



大きい…


これ…藍のだ。



自然にため息が出る。


何やってんだろ…オレ…。



「あっ…起きたんだね?」



暗幕の端から、顔だけ覗かせてる。



「細井さん…すみません。迷惑かけてしまって。」


「いいの。いいの。こっちこそごめんね。無理させたみたいで。」



手を顔の前で振りながら、オレの目の前まで来ると、視線を合わせるように跪いた。



「透も、振り回してごめんって、謝っておいてくれって。」


「そんな…オレも楽しかったですから。 あっ…2人は?」


「透は、自教室行って後片付けしてるし、紫津木は、委員会の仕事で巡視しながらの、清掃かな?」



そんな時間まで眠っちゃったんだ。



「ぁ…ごめんなさい。着替えて、ここ退きますね。」


「慌てなくていいからね。ここ最後にしてもらったから。 あと…メイク落とすから教えてね。」


「はい……ありがとうございます。」



支度終わったら、帰ろう。


これ以上迷惑かけられない。





*****





校庭を横切り正門を出た。


細井さんに止められたけど、今日は、もう帰りたい。



自分の身体なのに…怖かった…。


理由は、わかっている。


この身体……ムカつく。

  

藍を傷つける、この身体が…オレ自身が嫌い。



振り返って校舎を見た。


後片付けで忙しそうに動いてる生徒達。



楽しかった。高校生活をやり直せたみたいで…


神様に感謝したいくらい。


一時だけど、藍の同クラにもなれたし…



ありがとう。



オレ……


克服出来るまで、会わないほうがいいのかもしれない。


これ以上……心配かけたくない。


藍はきっと、オレを通して安堂を感じてる。


そんな辛い想い…

ずっとなんてさせられない。


藍のあんな顔見たくない。


オレの身体が藍を拒否る度…


切なくて…


添い寝だけで満足だよ…て、言ってくれる度


切なくて…


心がバラバラになりそうで…


会わないなんて言ったら、どんな顔をするかな…?




「紫津木先輩、第一体育館外回りOKです。」


「サンキュ!そうすっと…後は、第一体育倉庫だけだな。」



ひやぁ…



オレは、そっとパーカーのフードを被った。


格子状のフェンス越しに見るその姿に、心臓が早鐘を打つ。


腕には、巡視中の腕章が。


オレの知らない藍の姿。



カッコいい。



わあぁぁ!もう!


会わない方がいいんじゃなかった?


なに早速くじけそうになってんだよ。


オレはさらに、フードを目深に被り、ポケットに両手を突っ込んで歩き始めた。


藍は、今日のオレの私服を知らないハズだし、大丈夫。


あの角まで行けば、隣の敷地だ。

 

あと…50m位か


走ると逆に目立ちそうだし…

歩こうとしたけど、どうしても足早になってしまう。


あともうちょっと。



「先輩、どうされましたか?」


「気になるものを発見した。」



思ったより近くから藍の声がして驚いた。


思わず顔を上げそうになったのをぐっと堪える。



「そこの人!」



え?



「白いパーカーの人!」



オレの事だ…ヤバいかも…



「先輩?」


「気になるコ見つけた。」



バレてない…?



「白いパーカーの可愛いコ。こっち向けよ。」



なっ……!


オレの知らないところで!



「……ナンパかよ!」



ぁ…しまった……


オレって、馬鹿。






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