向川祭 11


顔を上げて藍を見ると、一点を見つめていたので、オレもその視線の先に目をやると、

 

えっと確か、委員長……? (名前なんだったけ?)

   


「ギャラリー増えてきたな。行くぞ。」



委員長を見据えたまま、オレにだけ聞こえるような小さな声で呟いた。


確かに、委員長だけじゃなくて、立ち止まってこっちをというより藍を見ている人達が、けっこう居た。


全然気づかなかったな。


委員長が、オレ達の方へ2,3歩近づいてきて、それに反応した藍が、オレを背中に隠した。



「女とイチャつくのもよいが、委員会の仕事も忘れるなよ。」


「忘れませんよ。先輩。」



うっ…トゲのある言い方。


チラッと覗くと、委員長の腕には、巡視中の腕章が。


仕事ってこれかな…?



「なら良いが。」


「愛、行くぞ。」


「えっ?……うん。」



藍は、オレの腕を引っ張って足早に歩きだした。


委員長は、いいの?

 

引っ張られながら後ろを振り向くと、

無表情のまま、こっちを見ていた。


なので、一応会釈をしてみたが、直ぐに視線を逸らされてしまった。


怒ってるな…。



「委員長、大丈夫かな?」


「はあ?」


「……委員会での藍の立場が、悪くなるとか…?」


「んなの関係ねぇよ。愛に近づくヤツは、みんな敵。」



ひえぇ……


誰も近づいてきませんように……!




*****




オリジナルアクセサリーを作っているのは、手芸部だったようで…

入口は、色とりどりの風船や花で装飾されていて…

 

うっ…入りづらい…


しかも、外から見える所には、可愛らしいウサギやリスのぬいぐるみが…


ハードル高過ぎ。



「……入らねぇの?」


と、隣から揶揄うような声が…。



「藍は平気なの?」


「オレは平気だよ。『彼女』の付き添いだからね。」


「……ズルい。」

 


思わず口を尖らせてしまう。



「何言ってんだよ。 愛は今、女の子だろ?」

 

「あ…そうか。」


「入るぞ。」



オレが安心する笑顔を向けてくれた。


一歩中へ入ると…というより藍が、入ると、

「きゃっ…」と遠慮がちな声が上がり…


目がハートマークって、こういうことを言うんだな。


続けてオレが入ると、違った意味で空気が変わる。


す…すみません…!



伏し目がちに前へ進むと、



「あったぞ。」

 


藍の声が降ってきた。


オレも顔を上げて指された方を見ると、

そのコーナーだけ、10人位並んでいた。



「並んでんの女子ばっかだな。」



アクセサリーって、もしかして乙女チックなものなのか?



「いいよ。オレ並んでるから、お前、先頭行って、どんなのあるか見てこいよ。」


「……うん。」



いつもながらの、その心遣いに


頭が上がらない…。



そっと覗いて見てみると、

シルバーアクセサリーが、沢山並んでいた。


手作り出来るんだ。


手芸部の技術レベルの高さに、驚いてしまった。


オリジナルアクセサリーが作れるのは、

指輪とブレスレットとネックレスの3種類のようで…


一番人気は、指輪だって、係の女の子が、先頭のコに説明してる。



指輪は…

 

ダメだ。抵抗ある。



ブレスレットは…


手首が華奢な、女子のイメージだ


それじゃ…ネックレス?!


うん。これなら、服の中に隠せそうだし、抵抗なくつけれそう。


数種類のペンダントトップから、好きなモチーフを選んで、

メッセージを入れたい場合は、別にメッセージプレートを付けるみたいだ。


ペンダントトップは、ハート 四つ葉のクローバー ドクロ リボン……


あっ……天使がある。


綺麗…多分、女性なんだろうけど…

藍のイメージにぴったりだ。


メッセージ…か。


カップルが、贈りあうものなんだろうな。


いやぁ……ダメだな。


ムリムリムリ。


贈れない。


ましてやお揃いにしようなんて……言えない…!



「ん?…何かいいのあった?」



えっ?!



声がした方を見ると、すぐ隣に居て、オレの手元を覗き込んでいた。


頬に唇が触れてしまいそうな距離に、変にドキドキして



「いつからいたの?」


と、可愛くない言い方になってしまった。



「今、来たばっかだけど…何、焦ってんだよ。」


「べ…別に。」



ああ…オレって、本当に可愛くない。



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