向川祭 9


式が終わり、2人で同じ舞台袖にはけると、

北本君が「イエーイ」と、ハイタッチを求めてきたが、

藍は、それを無視して回し蹴りをおみまいしてた。


北本君は、かなり痛がってたけど、

藍は、涼しい顔で「3割しか力出して無ぇぞ。」て、言ってた。



体格が良かった村井が、気絶するぐらいだからね…。



「この制服着せたのは、お前か?」



まだ、腰の辺りをさすってる北本君を見下ろしながら、低めの声で訊いてきた。



「そうだよ。めっちゃ可愛いでしょ?」


と、悪びれない笑顔でピース。



「短過ぎなんだよ!」



その笑顔にイラッとしたのか、大きな溜め息だ。



「えー?!似合ってるからいいだろ? それに、スカートの中が、どうなってるのか、気にならない?」


「同じとこ、10割で蹴ってやろうか?」


「そんな顔で凄まれても、全然怖かねぇよ。」



え?



前に回り込んで藍の顔を見上げると、


めっちゃ赤くなってる…


うーん。


藍の赤くなるポイントがわからない…。



「馬鹿……何想像したの?」


と、藍の目を見て訊いた。



「うっせぇ…。」



肘の内側で、顔を隠してしまったが、

空いている手をスッとオレの前に出してきた。



…ったく



緩んでしまう口元をそのままにして、

藍の大きな手に自分の手を重ねた。



フロアに下りると、細井さんが待ち構えていて、オレ達の姿を確認すると、


「2人とも良かったよ~!」


と、両手を広げながら走ってきて、

オレと藍をまとめてハグした。



「んだよ…離れろ。」


「何よぉ。如月君に名前呼ばれて、デレデレしてたくせに。」



え?



「…そうなの?」


「やっぱ好きな人に名前で呼ばれると、嬉しいんだねぇ。紫津木?」



そうだとしたら、嬉しいな…。


チラッと藍を見たら、直ぐに反対方向見ちゃって、表情がよくわからない。


けど…


第三者からそう言われると、めっちゃ嬉しい。



「ねぇ、どこ行きたい?」


「そうだな。時間も無ぇし、早速まわろうぜ。」


「何で、お前らも一緒なんだよ。」


「紫津木だけに、愛ちゃん独り占めさせねぇからな。」


「ハア?」 


「で?どこ行きたいんだ?」



藍は、1つ大きな溜め息をつくと、



「…………細井んとこ。」


と、前髪をかきあげながら答えた。


行き先を告げたのは、不本意って感じ。



「嘘ぉ?!嬉しい!やっぱツーショット写真? 如月くんだけのも欲しいよね?」


「うっせぇな。グダグダ言ってねぇで行くぞ。」



細井さんと北本君が歩き始めたのを見届けた後、 

スッと藍の手がのびてきて、オレの指に絡めてきた。

  

見上げると、「行くぞ」と、極上の笑顔…。



もう……全く…。





*****





しばらく廊下を歩いていると、前を歩いていた細井さんが、オレ達の方まで下がってきた。



「ねぇ紫津木。場所変わって。」


「ぁあ?」


「『ぁあ?』じゃないわよ。男子には内緒の話があるんだから。」



しっしっ!と、追い出す手振りをする細井さん。


いや…ていうか、オレも男子なんだけどね。


藍はオレを心配そうに見てきたけど、

「しょうがねぇな…」と、ため息混じりに呟き、前を歩いている北本君の隣に行ってしまった。


『こいつも女子じゃねぇだろ?』とか、

突っ込まないのね…。


細井さんに気付かれないように、そっとため息をついた。



「今、透とも話してたんだけど…写真大丈夫?」


「え…?」


「ほら…焼きそば食べてる時、けっこう辛そうだったから…。」


「あ……」


「もし…紫津木に話しづらいなら、私が適当にごまかそうか?」


「あ…いや…大丈夫だと思います。」



藍も一緒だし…

何とかなる…よね…?


それに…



「克服したいと思ってるんで…」

 

「そっかぁ……あ。でも、辛くなったら、直ぐに言ってね。まあ、愛する彼が側にいるから平気だと思うけど?」



……こんな時、どんな反応が正解なんだろう?

まだまだ、慣れそうにもないや……。

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