向川祭 7


ひやぁぁっ……!

そうだった。名前…!


同姓同名ですよ…

ここにいるのは、あなたの恋人の同姓同名の全くの別人です!


ウイッグの長い髪で、横顔を隠して、視界はほぼ、自分の靴だけになった。


ああ…早く終わってくれないかな…


後、何するんだっけ…


え…と…ぁ…メダル? 


首からさげるヤツ?



その時、スッとオレの目の前に誰かが立った。


と思ったら、その人はオレの左胸に手を伸ばしてきた…


反射的にビクッとなるオレ…



「な…何ですか?」



で…デカい。


睨んでやろうと顔を上げたら、思ったよりデカくて…


近頃の高校生は、栄養過多なの?!



「話を聞いてなかったのか?」


「え…っ?」


「私は実行委員長の君島崇だ。君の襟にメダルを付けるところだ。」



伊達メガネ?と思わせるような黒縁で、

メガネが無くても成立しそうな、整った顔立ちだった。



「ぁ…ごめんなさい。え…メダル?」


「そうか…転校生だったな。メダルと言っても、校章よりも一回り大きいサイズのバッチタイプだ。」



そう言って、親指と人差し指で摘まんで、柄をオレに向けて見せてくれた。


アルファベットのMの字がモチーフになっていて、赤地に紺のMだ。



「コレを付けていれば、一年間校内で色々と優遇される。」


 

へぇ……あれ?でも…藍、こんなの付けてたっけ?



そう思って、隣の藍を見上げた。




あ………失敗した



藍も、オレを見てた……




「ぁ…いや……、え…と…、」



直ぐに目を逸らそうとしたけど、

ブルーグレーの瞳に捕まって逃げられないでいたら…


「「「キャァーッ!イヤァー!」」」



女子の悲鳴に近い叫び声がして、思わず客席の方を見た。

すると今度は、男子の


「「「おおぉぉぉっっ!」」」


という声が……


な…何?

オレ…何かした?



「君は、美しい顔立ちをしているのだから、自信を持って顔を上げたらどうだ?」


と、バッチを付け終わった実行委員長が、話し掛けてきた。



「この後、私が校内を案内してやろうか?」

 


…へ?


いや…え…?



「あ……あの…いるので…大丈夫です。」


「もうそんな相手がいるのか?流石だな。」



何が?



「そっちより、私を選んだ方が得策だぞ。」



は?


これってもしかしなくても、口説かれてる?



「あの…本当に…大丈夫ですから。」



委員長は、オレの返事を無視して手首を掴んだ。

そしてそのまま、手の甲を唇に近づけて_て、

ちょっと待って!おとぎ話の王子様か!

 

イヤ!嫌だ!

   

そりゃ…藍相手に、そんな妄想した事もあったけど、

藍以外にそんな事されるのヤダ!

藍じゃなきゃ…



「目の前で、オレの彼女口説くの止めてもらえますか?先輩。」


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