向川祭 6
優勝しちゃった……
「すっごーい!おめでとう!」
舞台袖で見守ってくれていた細井さんが、飛びついてきてオレの首に手を回した。
エントリーしていた女子達の視線が痛い…
オレが男だと知ったら………怖っ…!
「飛び入りで優勝したなんて、初めてなんじゃない?」
目をキラキラさせてる細井さんには、申し訳ないんだけど…
早く引っ込みたい。
だいたい、優勝出来たのだって、ほとんど北本君の力によるものだ。
あの後、衣装が無いからと言うオレに、公平に審査する為に、この学校は制服で競うんだから大丈夫と説得されてしまい、舞台の上に立ってしまった。
最初、推薦人(北本君)の演説。
続いて、本人が会場からの質問に答えて終了となる。
その推薦人の演説が…
『あの、紫津木藍が選んだ女性です。間違いありません!』
から始まり、終いには
『お前ら選ばなかったら、紫津木に何されるかわかんねぇぞ!』
そりゃ、みんな選ぶよね…。
おかげで、その後の質問タイムは収拾がつかなくなり、強制終了となった。
この後、藍と(2連覇達成したらしい)並んで表彰式があるみたいなんどけど…
帰りたい…!
オレ、藍の学校に来て何やってんの?
こんな姿見られたくないよー!
*****
表彰式は午後一だというので、それまで昼食を済ませておこうという事になり、
今、どこかの教室(よくわからない)で、注文した焼きそばを食べている。
それにしても落ち着かない…。
「北本君は、交代とか無いの?」
「うん。まだ大丈夫。」
「細井さんは?」
「私の番は、もう終わったよ。」
「そうなんだ…。」
オレは、2人に聞こえないように、そっと溜め息をついた。
だって…さっきからずっと視線を感じる。
この2人目立つ…
「お昼は、いつも2人で食べてるの?」
「そうだな。紫津木がいれば3人で食べるけど。」
うわあ…
言葉がでません。
「あの…一緒に写真撮ってもらっていいですか?」
振り向くと、同じ制服を着た女子がデジカメを構えていた。
「いいよ。」
と、慣れた感じに受ける北本君。
いつもの光景なのだろうかと、さり気なくフェードアウトしようとした時、
「愛ちゃんも入れよ。」
冗談でしょ?
オレみたいな平々凡々が、一緒のフレームに収まれません…!
それにオレ…
「写真苦手なんだ…。」
「そっか」と、北本君が、いろいろフォローしてくれて、女の子達は、満足そうに写真を撮って行った。
去り際、女の子がオレの方に寄って来たので、文句を言われるのかと思ったら、
「握手して下さい」と言われた。
誰かと間違っているのかと思いつつ、握手をすると、
「紫津木先輩と間接握手!」
そういう事ね…。
*****
そしていよいよ表彰式……
スッゴく緊張してきた…!
掌の汗がハンパないんですけど…!
上手?下手?よくわかんないけど、
オレは今、舞台に向かって右側の舞台袖にいる。
藍は、左側。
司会者に呼ばれたら、一人ずつ舞台中央に歩いて行き、メダルと賞品を受け取るそうだ。
向こう側の舞台袖は、暗くてよく見えないけど、
藍は、もうスタンバっているのだろうか。
藍の顔…見たいな…。
でも、自分の顔は見られたくない…
なんだそりゃ…
ああ…!どうしよう…
「皆さん、お待たせしました!それではこれから、表彰式を行いたいと思いまーす!」
と、無情にも始まりを告げる司会者の声。
すると、ウオッッーと、地鳴りのような歓声と、キャァーッ!!という女子の歓喜溢れる声が会場から響いてきた。
帰りたい…。
「今年のミスター向川は…この方です!」
司会者のフリで、暗くてよく見えなかった舞台袖から、藍がスッと出てきた。
うわ……藍だ…
暗がりから出てきた藍は、まるでそこだけ後光がさしてるみたいに光輝いていた。
「2ーA 紫津木藍さんです!2連覇おめでとうございます!」
「…ありがとうございます。」
時おり、手を振っている藍は、別人のように見えた。
有名人なんだよね…
思わず後ずさってしまったオレの肩を
誰かがガシッと掴まえた。
ドキッとして、背後を見上げると北本君だった。
「どうしたの?怖くなっちゃった?」
無言で頷くと、
北本君はクスッと笑ってから、「大丈夫だよ。」と、囁いた。
会場を見ると、午前の比ではない人数の観客で、埋め尽くされていた。
大丈夫じゃないと思う。
藍の人気…ハンパない…。
「紫津木の隣まで歩いていけば、後はなんとかなるから。……アイツが助けてくれるよ。」
え…っ?
でも…
「続きまして、今年のミス向川は…この方です!」
「ほら…呼ばれたよ。行っといで。」
ポンッと背中を押されて、舞台袖からはみ出してしまった。
ええっっ!?
北本君を見ると、手振りで『行け』て、言ってる…
うっ‥…薄情者
舞台に出てしまったから、もう行くしかないんだけど…
周りの反応が怖くて、顔を上げられない。
あれ…どうやって歩くんだっけ?
もう…何やってんの?オレ…。
ごまかすために小さな歩幅で進んで、なんとか藍の隣まできた。
顔を上げられないオレは、藍の靴しか確認出来てないけど…。
どうかこのまま、藍と顔を合わせずに済みますように…!
「 2ーAの転校生、如月愛さんです!」
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