向川祭 4



「ダブル優勝狙ってるとか?」

  

「そう。あの紫津木が、特定の彼女をつくったんだ。お祝いしなきゃでしょ?」


「「「「ああ。」」」」



な…なに?揃って納得されてますけど?


受付の『貞子』さんの笑顔も怖い…。



再び歩き始めると、

  

「ヤローは、これでOKだな。後は、女共か…。」

 

聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で呟いた。



「おっつー。」

 

「北本、遅い。何やってたの?」



喫茶店になってる2-Aに入ると、制服に

フリフリのエプロン姿の女の子が3人出迎えてきた。


始まったばかりからか、お客さんは、まばらで、やはりお昼近くにならないと喫茶店は、混まないのかもしれない。



「悪ィ。悪ィ。」


「そのコ、だあれぇ?」


「ああ…紫津木の彼女。」



うわあ…さっきと同じ。明らかに空気が変わる。



「紫津木が言ってんの?」


「そう。すっげぇだろ?」


「へぇ…マジでそうなんだ。」



靴から頭のてっぺんまで、舐めるように観察された。

他の2人も遠巻きではあるが、オレの様子を伺ってる。



「で?私らに匿え…て事?」


「流石!話が早い。」


「でもねぇ…余計な心配かもよ? 校門前の事件以来、熱狂的な紫津木ファンも、鳴りを潜めてるらしいから。」



アレ……事件になってたんだ…。


藍にこっそり声をかけて、一緒に帰るだけだったのに…


でも…藍に対して、こっそりは、ここでは通用しないことを今日実感した。



「そっか…なら大丈夫か…。」



顎に手を当て、急に真剣な顔で何か考え始めた。


そんな北本君をよそに、彼女はオレに話しかけてきた。



「あなた名前は? 見たことない顔だけど?」

 

「あ…如月愛といいます。…よろしくお願いします。

実は…ここの生徒じゃないんです。 細井さんのところで、制服お借りして…。」


「ああ…。そういう事か。私、大河内薫。」



大河内…?薫…?


どっかで…聞いたような…



「それから…」


と、既に接客している2人を指差して

名前を教えてくれたが、全然頭に入って来なかった。


どこでだっけ…?



「でも、あなたが彼女と言われても、面白みが無いわね。」



え?



「モデルが選ぶのは、なんだかんだ言っても、やっぱりモデル体型の可愛い顔なんだね。」


 

は?


いやいや…オレの事を女だと思ってるから、まあモデル体型のことは目を瞑るとして…

可愛い顔…て、何だよ。

女の子に言われても嬉しくない。


ん? いやいや、男に言われても、嬉しくないから!



「大河内、ちょっといいか?」



彼女が、北本君に呼ばれてオレの側を離れた瞬間、その時を見計らったように声をかけられた。


声がした方を見ると、男子生徒数人の集まりで…


いかにもガラの悪そうな…お兄さん達。


テーブルのグラスは、とっくに空になっていたらしく、氷も溶けて水になっていた。



「オレ達の相手してよ。」

 


ニヤついた目つきでオレを見てる。



「オ…わ…私?!」


「アンタしかいないでしょ?」



男は、バカにしたように鼻で笑った。


他のヤツらも、クスクス笑いながら伺ってる。



ぁ…。



コイツらの顔が、いつかの安堂と村井と重なった…。



「でも、私…」



どんな顔をしていいかわからず、引きつってしまう…。


ていうか…もう誰にも気ぃ遣う必要なくなったんじゃない?


無理に笑顔つくる必要ないんだよ。


嫌だったら、ちゃんと拒否しなきゃ。


そもそも、コイツら安堂の客じゃないし…


いつまで、安堂達の亡霊に悩まされるんだよ。



「何してる?早く来いよ。」



痺れを切らしたのか、立ち上がってオレの方に1歩踏み出した。


すると、つられるように隣に座ってたヤツも立ち上がる。



ちょっ…ちょっと…、



1歩後ずさった。


やっぱり怖い……




「何してるんスか?先輩。」







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