向川祭 3
結局、北本君が話してくれたのは、そこまでで、オレも、それ以上は訊かなかった。
「仕上げに…このウイッグをつけて…、はい完成!」
「かつらも、つけなきゃダメなの?」
「一度、校門前で絡まれたって聞いて…ね。この方が、わかりづらいでしょ?」
そっか…
「自分の姿、見てみる?」
そう言って、姿見の前まで誘導してくれた。
鏡に映りこんだ自分の姿は、
うっ……すご…っ…オレ
「女子高生になってる…」
黒髪のロングのかつらをかぶってる自分は、オレじゃなかった。
「メイクも、紫津木好みのナチュラルメイクにしてみました。」
藍の好みか…
鏡の中の女の子をまじまじと見つめた。
「ねぇ…藍の彼女…て、みんなこんな感じだったの?」
努めて明るく、冗談っぽく訊いてみた。
「うーん…彼女…ていうか…」
「アイツ…彼女なんていなかったよ。」
え…っ?
「まあ…不特定多数の…溜まったら出す…みたいな」
「ちょっと透!」
「え?あっああ大丈夫だよ。 今は、愛ちゃん一筋だから…ね?」
そう言えば、そんなような事…藍も言ってたな…。
「それじゃ行こうか?」
と、オレの前に拳を出してきたので、
おずおずと拳を合わせると、
柔らかい微笑みをオレに向けて、オレの肩に手をかけながら歩き出した。
「あっ。 話すの忘れてたけど、愛ちゃんにもサプライズがあるから、楽しみにしててね。」
と、オレを見下ろしてウインクする北本君…。
「オレにも…?」
ウインクはとりあえずスルーしつつ、
もっと知りたくて北本君を見上げた。
「そっ。サプライズだから、詳しいことは言えないけど…オレからの両想い記念のプレゼント。」
「ありがとうございます。」
プレゼントなんて…久しぶり…
それにオレ…よく考えたら、藍が居ないのに、藍の友達と話せてるんだよね…。
凄い…。
進歩かも…。
「マキも、協力サンキュな。」
後ろを歩いている細井さんに、顔だけ向けて片手を上げた。
「いいわよ。透にツケとくから。」
「元カレ割引ねぇの?」
「あるわけないじゃん。ビジネスは、厳しいんだからね。」
「んじゃ…オレの身体でじっくり払ってやるよ。」
「ハア?! ばっかじゃないの?」
前に向き直った北本君に、
この人は……と、半ば呆れつつ見上げたら、
嬉しそうに、口角を上げていた。
「それじゃ…如月君、頑張ってね。」
振り返ると、細井さんは、写真館の入り口で手を振っていた。
そっか…細井さんは、同じクラスじゃなかったんだ。
はぁ……
自分の考えに溜め息が出た。
……オレ…どんだけ頼ってんだよ。
しっかりしなきゃ。
隣のクラスのお化け屋敷は、既に長蛇の列になっていて、
まだ、一般のお客さんは少なく、ほとんど向川の生徒のようだった。
ただ…この北本君……。
その横を涼しい顔で歩いている……
オレの肩を抱いたまま…。
「あれ?北本。新しい彼女?」
当然だよね。
どうするの?
こんな格好で目立ちたくないんですけど?
「違うよお。」
「ねぇ…北本君…」
オレは、早くこの場を立ち去りたくて、小声で訴えた。
「わかってるって。任せときな。」
そう言ってくれたのに…!
「このコ、紫津木の彼女だから。」
………
は?!…はあっっ??!!
「ちょっ_、」
「「「「ええーっっ??!!」」」」
今まで興味無さそうに並んでいた人達も、一斉にこっちを見た。
北本君て、ワザとなの?それとも…天然?
みんな、列を乱さないように出来る限り身を乗り出し、オレの顔を伺おうとしている。
ますます顔をあげられなくなった。
「つーわけで、殺されたくなかったら、手ぇ出すなよ。」
え…っ?
「お前は?」
「オレは、彼女とも友達だからいいんだよ。
んな事より、彼女も出場するからよろしく。」
なんか今サラッと言ったよね?
出場…?て…なに?
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