藍の隠し事 3


『愛ちゃんは、紫津木のこと藍って呼んでるだろ?』


「?…はい。」


『それは、紫津木が呼んで欲しいって言ったからなんだろ?』


「……そうだけど…?」


と、答えるのと同時に、言われた時の状況を思い出し、急激に顔が熱くなった。



『だったら、もっと自信持ってもいいんじゃない?』


「え……?何で?」

 

『明日来れば、わかるよ。』



そうなの…?



『じゃ、来てくれるね?』


「…はい…。」



今一つ納得いかないまま電話が切れて、そのうち夕飯の時間になり、

藍が家に帰ってきた。



「ただいまあ。今日、すっげぇ疲れた。」



オレを抱きしめて、肩に額をのせた藍。



「信じらんね。殺人的だった。」

 


まあ…そうだろうな。想像しただけでもわかる。



「明日は、もっと疲れることさせられるんだよな…。」



一般のお客さんが、来るから…て事?


フフッ…藍は気づいて無いみたいだけど、藍は仕事に対して、“させられる”ていう言葉は使わないんだよ。


まあ、藍は嘘はつけないから、明確に仕事とは言ってないけど…

訊いたら答えてくれるのかな?


でも…やめとこ。困らせたくないし…。



「シャワー浴びる前に、癒やされたい。」


「それって…?」


「こういう事。」



藍は、ひょいとオレを立ったままの状態で持ち上げると、そのまま寝室に入った。


萎縮してしまって、藍のシャツを握り締めると、

藍は、穏やかな表情でオレを見上げた。



「何もしねぇよ。ただ…」



その状態のままベッドに倒れると、緩く抱きしめてきた。



「こうやって、愛の体温を感じたいだけだから。」


「藍…。」



オレも感じたくて、藍の胸に顔をうずめ

た。



「藍…。」



この名前に何か意味があるのかな…?


答が知りたくて藍の顔を見ると、瞳を潤ませ、何かを堪えているような表情だった。



「藍…?」



オレの問い掛けに我に返ったように、瞼をパチッとすると、すぐに視線を逸らした。



「悪い。シャワー浴びてくる。」


 

そう言い残して、ベッドを後にしてしまった。


誘っておいて、すぐに行っちゃうなんて、ずるいよ。もー。


オレは、藍のまだ温もりが残るシーツの上で身体を丸めながら、やがて消えてしまうであろうその温もりに、未練がましくすがりついた。



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