藍の隠し事 2


電話の向こうから、溜め息が聞こえた。



「あの……北本君?」


『ああ……ごめんね。 ただ…あいつ、どうしようもねぇな。と、思ってさ。』


「明日…何かあるんですか?」


『ん~』



北本君が何かを言いかけた時、リビングの扉が開いて藍が入ってきた。


スウェットのパンツを履いて、上半身は裸のままの藍は、バスタオルを肩にかけて、乱暴に髪を拭いている。



「ごめんね、北本君。藍がお風呂から上がってきた。」


と、何故か小声になってしまう。



『そうか。わかった。 それじゃ、愛ちゃんのケー番教えて。明日連絡するから。』



ケー番を小声で教えていると、髪をわしゃわしゃ拭いてる藍と目が合った。


藍の携帯だってこと、バレた?



『わかった。ありがとう。それから……これだけは信じて欲しいんだけど…』


「?…はい。」


『紫津木は、愛ちゃんの事裏切るようなマネは、絶対にしてないから。』


「北本君…」


『だから、今夜は安心して紫津木の腕枕で、おやすみなさい。』


「えっ…」


『それじゃ、そこに居る馬鹿に替わってくれる?』



藍の近くまで行き、携帯を差し出すと



「ん?オレの携帯?つーか、誰から?」



髪を拭きながら携帯を受け取ると、



「はい?北本?!お前、愛に何吹き込んだんだよ!真っ赤な顔してるぞ!」





*****





次の日、北本君が電話をくれたのは、夕方近くになっての事だった。



『ごめんね。思いの外忙しくて。 紫津木パワー舐めてたわ。』


「え…っと…?」


『ああ、ごめん。きちんと説明してなかったね。 実は、今日と明日…』


『オイ!北本!まだ仕事終わった訳じゃねぇんだぞ。 女に電話なんかしてんな!』



え?…今の



「藍?」



『違ぇわ、ボケ! ん?ああ、そうだよ。』


「なんか忙しそうだね。」



藍の声だけじゃなくて、複数の怒号が飛び交っている。



『場所変えるね。』



暫く北本君の息遣いだけが聞こえていたが、



『この辺でいいか…。』


と、北本君が話した所は、本当に周りに人が居ないんだなと思わせるように、雑音が消え、北本君の声が良く響いた。



『実は、今日と明日、向川高の文化祭なんだよね。』


「え…っ?と…文化祭…?」



なんか…意表を突かれたというか…肩すかしというか…


なんだ…ていうか…なんで隠したのかな?



『今日は、校内向けで、明日が一般公開なんだけど…うちらのクラスの出し物が、まあ…ありきたりの喫茶で…んで…少しでも売り上げを…と思って、厨房希望だった紫津木を無理矢理ホールにしたら、大変な騒ぎになって……』



ああ……だろうな。


それでさっき、イライラしてたのかな?


なんか想像したら可笑しくなって、吹き出しそうになるのを必死にこらえた。



『で…愛ちゃんには、アイツにサプライズ仕掛けるの手伝って欲しいんだけど。』


「サプライズ…?」


『そう。アイツさ、実行委員もしてるから、超忙しいんだよね。だから、少し愛ちゃんと休んで欲しいな…と思って。』



そうなんだ…。



『段取りもあるから、明日9時に校門前に来てくれる?』


「あの……」


『何?』



ずっと引っかかっていることを訊いてみた。



「藍はオレに、来て欲しくないんですよね? それなのに…行っていいのかな?」



北本君は、少し間をおいてから話し始めた。



『真意は、オレにもわからねぇけど…。 オレに言わせれば、好きな奴は、素直に呼べって話だよ。』


「でも…」



何で来たんだ?みたいな顔されたら…?

そう思うと二の足を踏んでしまう。





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