互いの気持ち 13



ゆっくりと唇を離して、藍を見つめた。

 

愛しさが、倍増している。


この気持ちをどう表現すればいいのか、わからない。

もし、オレが犬だったら、思いっきり尻尾を振って、大好きなご主人様が目覚めるのをベッドサイドで、今か今かと待っているんだろうな。

 

もう少し、甘えていたい。



再び、藍の隣に潜り込んだ。

 


腕枕してくれていたのに、覚えてなかったんだから…いいよね。



彼の腕に頭をのせて、脇に顔をすりすりした。

   

 

藍の匂い…好きだな。


使ってるボディーソープの匂いなのかな?

それとも、コロンの匂い?


今度訊いてみよ。



あれ?腕が、小刻みに揺れだしたんですけど…?


まさか…藍?



「クッ…はぁ…ダメだ…我慢できねぇ…。」



ガバッと起き上がって藍を見下ろすと、反対側の手で顔を覆っていて、その手が小刻みに震えている。



「藍…?」



顔を覆っている指の間から、まるで悪戯っ子のような瞳で、こちらを伺っている。



「いつから…?」

 

「キスしてくれたあたりから…?」



うっ…ひゃぁ~


オレ…何した?


自分からキスして…それから…?


すりすりして……甘えて…


藍の匂いをクンクンしてました…。



「もう1回してくんねぇかな…と思って、寝たふりした。」

 

 

うっ……羞恥で死ねそう…。



「んな顔すんなよ…。」



そう言って起き上がると、オレの顔を覗き込んできた。



「すげぇ嬉しかったんだ…。愛からしてくれたこと…。」



え…?



「ちょっと不安だったからさ‥。」



あ…っ

 


「ごめ…っ…」


「ストップ!謝んなよ。」



え…っ?



「オレも謝んねぇからさ。

昨日の事は、どっちが悪いつーわけじゃねぇだろ?

これからの事は、もう、ひとりじゃねぇんだし…二人で考えていけばいい。

つーか…オレは、抱きたい。 愛は、そん時の気持ちで、拒否ってくれてかまわねぇから。遠慮すんなよ。 そうやって、徐々にでも進んでいけばいいんじゃねぇの?オレ達。」



藍…


考えてくれたんだ。


“オレ達”…なんか、良い響き。



「藍…お願いがあるんだけど。」


「おっ…何?」


「ギュッとして。」



オレが両手を広げると、驚いたように目を丸くしていたが、直ぐに嬉しそうに目を細めて、オレを包み込んでくれた。


一瞬だけ、まったりとした幸せオーラに包まれたが、

直ぐに、後悔する事になった。


それは…



「馬鹿っ…そこ舐めんな…!」


「口が当たってるだけじゃん。」



忘れてた。

藍が、パンツ1枚だけだったこと…。



「っ…!息が…」


「鼻息だし……」


「クソッ……あんま煽んな…!」



次の瞬間、景色が反転したかと思ったら、ベッドに押し倒されていた。

 


「今のその顔…すげぇそそる。」



そのまま、覆い被さってくる藍。



「まっ…待って…落ち着いて!」



必死に、藍との間に手を入れて阻止しようとしていたら、

急に力が抜けたように、オレに身体を預ける藍…。



「藍…?」


「何もしねぇよ。」



え…っ?



「ただ…もう少しこのままでいい?

オレ…これだけでも、けっこう幸せなんだけど…。」



うっ……ずるい。


そんなセリフ言われたら、断れるわけないじゃん。



年下らしさをちらつかせ、懇願してきた恋人に、返事代わりのハグをした。


それから、バタバタっと支度をして、昨日残した食事を朝食代わりに食べて、


「いってらっしゃいのチューは?」なんて言うヤツに、玄関先でチューをして、見送ったら、いつもの日常に戻った。


ううん。いつもの…じゃないよね。


いつも以上の日常が始まる。



藍を見送った後は、リビングでひとり、ボーッとしていた。

 

本当に、ただボーッと…。


出窓からは、朝の柔らかな光が射し込み、のどかな雀のさえずりが聞こえていた。


こんな穏やかな朝を迎えることが出来るなんて、昨日までは、想像もつかなかった。



本当に…


自由なんだ。



安堂からの連絡が気になって、周りの景色なんて心に入ってこなかった。


ただ、朝なのか夜なのか、それを知るためだけの出窓。


それが、ここからの景色を目を輝かせながら眺めている藍の姿が、とても新鮮だった。


あの日から、オレの周りは、少しずつ色づき始めたんだ…。


藍…。


オレの気持ち…ちゃんと伝わってる…?

 

藍の気持ちに、ちゃんと応えられてる?


応えられて…ないか…。


藍は、徐々にって言ってくれたけど…


オレも、努力しないと_て、


努力してどうにかなるものなのか?


でも、何か…わかんないけど…


何かのきっかけで、スイッチが入ったはずなんだ…。


カウンセラー目指してんだろ?


まだ、基礎教科しか受けてなかったけど…


でも、藍のため…!


克服しなきゃ…!安堂なんかに負けてられない!



これからも、ずっと藍の隣にいたいから。


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