互いの気持ち 12


カチャッ


  

その音に反射的にピクッとなるオレ。



カチャッカチャッ


悪寒とともに、変な汗が背中の辺りから吹き出してきた。


心臓が全身に広がったんじゃないか…て思う位、身体中から心音が鳴り響いてる。



この音が、何の音かは知ってる…。


男達が、自分の欲望を解き放つ時に出す音…

 


違う!違う違う違う違う!!


この音は藍が、ただベルトを外している音だよ。


相手は藍だ!アイツらじゃない!


落ち着け!こんな事考えてたら、藍に気づかれる!


ガッカリさせちゃう!落ち着け…!



あ……っ! 



誰かが、オレの腰に触れてきてる!


脱がされた!


怖い!怖い怖い怖い怖い怖い!


 

いや違う!藍だ!相手は藍だ!


わかってる!わかってる…けど…



怖い!苦しい!息が上手く出来ない……!


怖い…!助けて……!

  


あ…!電気!

  

藍の顔を見れば、落ち着くかも…!  


明かりをつければ、何てこと無い!



ぁ…


内股に触れられた…!



恐怖で、鳥肌が立つ。

   

違う!アイツらじゃない!藍だ!

違う!……違うってわかってるはずなのに…


怖いんだ…怖くて震えが止まらない…



でも、こんなに震えてたら藍にバレちゃうよ…


頭ではわかっていても、身体に染み込んだ恐怖がオレを支配していた。



「愛…?」


「ひゃ…!」

  


肩を押さえこまれた!逃げられない!


助けて!怖い!藍!

 


オレの頬に何かが触れた瞬間、心の中で張り詰めていたものが弾けた。



「藍!藍藍藍藍! 藍!どこ!どこにいるの!助けて!ここに来て!お願い!早く!藍!」


「愛!」



藍がオレの名前を呼んでくれたと同時に、ベッドサイドの間接照明の明かりがついた。



目の前に愛する人……。



「愛…?」


「藍……!」



勢いよく起き上がり、藍に抱きついた。



「怖かった。怖かった。怖かったの!ごめん!ごめん藍!オレ…オレ…わかってんのに!ごめん!」

  

 

涙が止まらない…


まるで、幼い子供のように声に出して、わんわん泣いた。


そんなオレに藍は、何も訊かず、静かにただ、頭を撫でて抱きしめてくれていた。



オレは、心地良い藍の心音を聞きながら、いつの間にか眠ってしまった。





*****






ん?……あったかい……気持ちいい…。


頬に触れてる部分が暖かく、妙に気持ち良かった。


それに、この匂い……ホッとする…


藍と同じだ…



ん?藍?!



パチッと目を開けると、藍のどアップが……!!

 

うわぁ!  

  

思わず、のけぞってしまった。


目の前には、

カーテンが開け放たれた窓から、太陽の光を気持ち良さそうに浴びている、藍の寝顔…。

 

改めて近寄り、眺めてみた。


紫津木藍の、ガチ寝顔…。


オレだけのもの…なんだよね?



でもオレ…


傷つけちゃった…。



ごめん…。



オレも、同じ男だからわかる。


あれじゃ、拒否ったと同じ…凹むよね…。


心と身体…藍の全てが欲しいのに…


オレの身体…どうしちゃったんだろ…。


好きな人と、ベッドを共にする喜びを知ったのに、自分の身体に染み付いた現実も知ってしまった。



あれ?


腕枕してくれてたんだ…


腕がオレの方に伸びている。

 

それを見て、ほっこりと頬が緩んでしまう。



適度に筋肉がついてる腕をたどっていくと、なにも纏っていない肩と鎖骨が見えた。


チラッと布団を捲って見ると、パンツ1枚で寝てる…



なんで?



あっ…と思い、自分の姿を確認すると、藍に脱がされたはずの、Tシャツとジャージを身につけていた。



あれから、着せてくれたんだ…。


藍、優しすぎ…。

 

オレのこと、こんなに甘やかして、どうすんだよ。


そんな彼の寝顔を見ていたら、愛しさがこみ上げてきて…


緩く開いた藍の唇に、自分の唇を重ねた。



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