互いの気持ち 14



「愛…?愛!」



さっきまで腕の中で泣いていた恋人が、急に静かになったので焦ったが、

直ぐに、寝息が聞こえてきたので、寝落ちしただけかと安堵した。


泣きはらした顔を見て、改めて抱き締める。


そっと…優しく抱き締めないと、折れてしまいそうな、この身体…。


直ぐに気づいてやれなくて、ごめん…。


あんな…震えて泣いてたのに…オレに気ぃ遣って謝りやがった……


クソッ……安堂のヤロー…!気絶するまで殴ってやればよかった。



起こさないようにベッドに寝かせて、オレが脱がせてしまった服を着せた。



可愛い顔が、カピカピだな…。


顔だけでも、拭いてやるか。


洗面所行くついでに、Yシャツも洗濯すっかな。



額にキスを落としてから、立ち上がった。


洗面所に入ると、あん時放っておいた愛の服が落ちていた。


怒りが再燃しそうなのを抑え、両方の服を洗濯機に入れて、スイッチを押した。


機械が洗濯物の量を計り始めた…



ウィーンウィーン…


……




ドンッ!!




クソッ!!



目の前の壁を思いっきり叩いた。



わかってんだ。

 

どんなに壁を叩いても


例え、安堂を死ぬまで殴ったとしても


この気持ちが収まる事はねぇんだ。



んな事より、これからの事を考えよう。


安堂に縛られていた鎖を断ち切った今、本当の戦いは、これからなのかもな。


その事をオレも愛自身も、わかってたようで、わかってなかったんだ…。


両想いになって、つい舞い上がっちまったけど、

これまで以上に、あいつの気持ちに寄り添ってやりたい…。



棚から小さめのタオルを取って温タオルをつくり、再び寝室に戻った。


涙で固まった肌をほぐすように、タオルで温め拭いていく。


そのせいか、さっきまで青白かった肌が紅潮して桜色になり、

カサカサだった唇も、水分を含んだように、ぷっくりとした。




やべ…っ


今、何考えてた?



これ以上馬鹿な事を考えないように、寝室を出て、食事の片付けをする事にした。



リビングに入り、ローテーブルの上の食器に、次々とラップをかけていく。



愛…全然食わなかったんだよな…。



どんな話をしていたのか思い出そうと、手の動きを一旦止める。



確か……


料理をするようになったのは、いつから?

みたいな話だったよな…?


あ…


あいつ、自分に自信が無さ過ぎつーか…


皆無?


オレに愛人とかって、信じらんねぇ事本気で考えてたかんな。



ホント…ほっとけねぇよ。


ひとりにしとくと、直ぐに悪い方に考えそうだ。


態度だけじゃなくて、

常に言葉にして伝えてやらねぇと、


危なっかしくて…。



ラップをかけたものを冷蔵庫にしまい、コップや箸などを洗って片付けた後、

眠るために寝室に入った。


布団を捲り、そーっと隣に横になる。

片肘をついて、愛の顔を眺めた。



いつか、オレの顔を天使みたいだ…て、言ったけど、

お前の方が、よっぽど天使だよ…。



もう片方の手で、髪を梳いてやると、

どうしても、衝動が抑えられず愛しい唇にキスをした。


深く…深くなってしまいそうになるのを相手の意識が無いのに…と、自嘲して思いとどまった。


明日の朝起きたとき、隣で寝ている男がパンツ1枚だったら、どう思うだろうか?


でも、制服のスラックスで寝る訳にいかねぇし、Yシャツは、洗濯乾燥中だし、仕方ねぇだろうと、自分の中で言い訳をした。


それより…オレの事、受け入れてくれるだろうか?


オレの顔を見たら、恐怖を思い出すんじゃねぇか?



っんだよ…オレも自信ねぇんじゃん…。



そうならないように願いを込めて、

腕枕をするように、愛の頭の下に腕を滑り込ませて、眠りについた。



第1章 end



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