互いの気持ち 10



「なあ……この際だ。他に不安な事は無いのか?」



オレを抱き締めたまま訊いてきた。


目の前には、紫津木の首筋。


そこにかかる柔らかそうな金髪を眺めていた。



「んー。」



頭を紫津木の肩に預け、考えた。



いいのかな……訊いてみても。

  

 

「ねぇか?」


「あ…あの……ね?」


「おう。何?」



優しい響きに安心するけど…


答えてくれるかな…



「葵さん……」

 


それだけ言って直ぐに、顔を紫津木の胸にうずめた。


反応が怖かったから。


でも直ぐに、笑いを堪えてるのがわかった。


微妙な身体の揺れで。



「続きは? 葵さんが、どうした?」



やっぱり、声も笑ってる。



「うん……え…と…葵さんに告白された…て、前に言ってたけど…なんて返事したのか…訊いてなかったから。」


「ああ……言ってなかったか?」



オレは、顔をうずめたまま頷いた。



「直ぐに断ったよ。

オレを拾ってくれた人だし、尊敬もしてるけど…恋愛感情とか…そんなんじゃないから。」


「え?!」



身体を起こして、紫津木を見上げた。



「断ったの? 葵さん断って、オレがOKなの?何で?」


「…不満か?」


「いや…そういうんじゃなくて…」



どう説明すればいいのか分からず、俯いてしまう。



「わかるよ。ごめん。 オレが好きだっつってんだ。自分に自信持て。な?

それと…オレからお願いがあるんだけど…」


「え?…何?」



紫津木から、改まったお願いなんて…


何でも聞いちゃう!



「お前さ…夕飯、一口も食ってねぇけど…」



なんだ…そういう事か…



「ごめん…今直ぐ食べるね。」


「いや……そういう事じゃなくて…」


「え…何…」



紫津木を見上げてハッとした…。


さっきまでの雰囲気と全く違っていて…

 

その濡れたような瞳は、情欲の色香を漂わせていた。



「夕飯…後でいいよな。オレ…もう限界…」



何を望んでいるのか分かってしまったオレの顔は……はしたない位…赤くなってる。



「うん……いいよ。」



オレの返事を聞き終わるか終わらないかのうちに、紫津木は唇を重ねてきた。


今までの欲を解き放つように、まるで貪るようなキス。


紫津木の舌がオレの舌を絡めて、吸い上げた……。



「……ん……っ」



甘い吐息が漏れてしまう……。


紫津木の舌が上顎をなぞる……。



「……あ……っ……」



身体が熱くなる……


思わず漏れる声も、紫津木の唇で塞がれてしまう……。



「ここ、感じるの……?」



また上顎をなぞられる……。



「は……ぁ……っ…」



肩がピクッと跳ねてしまう……。



「可愛い……。」


「…紫津…木…。」



名前を呼ぶ声でさえ…甘い吐息混じりになってしまう…


オレも、こんな声出せるんだ…。



「名前…藍…て、呼んで。」



吐息がかかるほどの距離で言われて



「藍…?」


「いいね…クるわ…じゃ…オレも…」



舌を這わせながら耳元までくると



「愛…」

  


掠れた声で囁かれ…


脳まで蕩けそう…



「あ……っ」



紫津木は、立ち上がってオレを姫抱きにした。


………オレ、何回抱っこされた…?


され過ぎでしょ……?


でも…背中や膝裏に感じる力強い腕の感触や、包み込むような紫津木の体温が心地いい……。



紫津木は、オレを抱いたまま器用に寝室の扉を開けた。


寝室に入ると開けたままになっていたカーテンの間から、月明かりが漏れていて、空気も少しヒンヤリしている。


オレは、何故か背中に悪寒が走り、

とっさに紫津木のシャツを握りしめた。


部屋の片隅を見ると、無機質なベッド…………。


鼓動が早くなり、変な汗が出てきた。


シャツを握りしめてる手にも、力が入ってしまう…。



「怖いか?」



オレが唯一、安心する声。


紫津……藍に、心配かけちゃいけない。


がっかりさせたくない。


大丈夫。



オレは、首を横に振った。






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