互いの気持ち 9


「こんな……オレの身体…抱けるの?」


「やっぱその質問かよ。」


と、表情を固くさせた。



でも…今言わなきゃ…ずっと引っかかったままになると思うから。



「オレの身体の中に…顔も覚えていないような奴らが、出して行ったんだよ? 手垢まみれのこんな身体…抱けるの?」


「オレが、安堂に言った事は本当だ。

そいつらの記憶を消してやるし、オレにしか感じない身体にしてやる。」


「それは…勢いで言っただけだって…」


「勢いで本音が出たんだよ。」



え…?



「“鈍感野郎”つって、オレに食ってかかってきた、あの勢いは、どうしたんだ?」


「だってオレ……不安になってきて…オレに、好きって言ってくれたことも、ただの勢いだけなんじゃないか?とか…」


「如月?さっきの質問の答えだけど…」



紫津木は、オレを包み込むような優しい笑顔を向けてくれてる。



「ピュアな心に、惹かれたんだ。」



え…?



「如何なる者にも侵されない心。」


「え…だってオレは」


「汚れてねぇよ。」


「でも……、」


「本当に汚れてる奴は、そんな風に思わねぇよ。それと…」



紫津木は、立ち上がってオレの隣に来ると、

オレの腰を両手で掴んでクルッと回し、自分の方に向かせた。



「オレの大事な人に、“こんな”とか、“なんて”とかつけんな。それが例え本人でも許さねぇからな。」


「………」


「………」


「………?」


「…どうした?」

 

「言ってる意味が、わからなくて…。」


「は?」


 

だって、本当にわからないんだもん。



「要するに、自分をおとしめるような言い方は、すんなってこと。」

 

「いや……そこじゃなくて…」


「じゃぁ、どこだよ。」

 

「本人……て?」



それが何?みたいな顔で、手のひらの先をオレに向けた。



オレに……



オレに……?



オレ?!



「本人……て、オレなの??」



「だから……何?」


「紫津木の…大事な人……て、オレ…なの?」




一瞬…時が止まったかのように、紫津木の表情が固まる。


そして……



「は?つーか、え?!」


「いいから、早く答えてよ!」



紫津木はクッ……と、笑いだした。


一応、抑えてくれてるみたいだけど……、



「わ、悪ィ……でも…今さらかよ。」



まだ、口元が笑ってる。



「そんなに笑わなくったって……。 で…どうなの?」


「そうだよ。お前だよ。 今までのオレのアピールは、なんだったんだ?」



ほとんど笑いながら話してるし……。 



「……紫津木には……他にきちんとした彼女がいて……オレは……愛人なのかな……?て……思ってた。」


「はぁ?」



真顔に戻ってる……。


もしかして…呆れてる?



「愛人なんて……まじ、ありえねぇだろ。 どんだけ自分に自信がねぇんだよ。」



はい……何も言えません。



俯いてたオレは、静かになった紫津木が気になって、目だけでチラッと見ると、


「ほら。」と、両手両足を広げていた。



うっ………



オレが動けないでいると、

両膝を立てたまま、お尻を引きずってきて、オレをホールドした。


正座したままのオレを包み込んで、耳元で囁いてくれた。



「しょうがねぇな。 オレがお前の自信になってやるよ。」


「カッコ良すぎ……。」


「うるせぇ……。」



オレも、紫津木の背中に手を回した。


紫津木は、いつも、その時に欲しい言葉をくれる…。

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