互いの気持ち 8


大きな声を出され、ビクッとなるオレ。



「あ……悪ィ。」


「ごめんなさい…。」



きっと怒ってる。


顔…上げられない。



大きな溜め息をついて、頭を掻いてる様子が伝わってくる。


ますます上げられなくなった。



「如月?」



優しい声。



「オレを見て。」



首を横に振り、膝の上でキツく握り締めた自分の拳を見つめた。



「ったく…しょうがねぇな。」



ほわっと頭の上に、紫津木の大きな手のひらが触れた。



「オレは、お前に聞いて欲しいんだ。」



え…

 


「ただ…情けねぇ事に、まだ気持ちの整理がつかないところがあって、上手く話せるかどうかわかんねぇけど、これから徐々に話していきたいと思ってるから…そん時は、聞いてくれるか?」

 

 

顔を上げると、「やっと可愛いい顔見せてくれた。」とか言って、子供扱いして…


でも…紫津木の優しさが伝わってきて…


凄いほんわかしてきて…



「それから…お前はオレに、気軽に色んなこと訊いていいんだからな? 変に遠慮すんな。」



え…



「うん…。」


「で…如月は、どうなの?」


と、ハンバーグを1口放り込んだ。



「え…?」



唇に付いたソースを器用にペロッと舐めてから、口を開く。



「お前だって、こんなに器用に作れんじゃん。」

 

「オレは…そんなんじゃ…」


「高校の時の彼女とかにも、作ってやったんだろ?」


「え?」


 

口を尖らせ、拗ねた表情をしている。

   

よく憶えてたな…。



あ…


あれ?


あの時、機嫌が悪くなったのって…


え?!…そういう事?



「何だよ。」


「いや……オレ、誰かのために作ったの、これが初めて。」


「え?!マジで? やった! 如月の“初めて”いただいてます。」



紫津木が言うと、何か厭らしく聞こえる。



「でも…この夕飯は、紫津木が作ったんだ。」


「…は?」


「オレは、野菜切って、材料混ぜてこねただけ。 スープだって、コンソメキューブ突っ込んだだけ。

紫津木が、上手に焼いて、ソース作って、美味しそうにサラダ盛り付けたんだろ?

オレなんて…何もしてない…。」



つくづく自分が嫌になる。


また、こんな言い方して。


そのうち、紫津木に嫌われるぞ。


もう、呆れてるかも…だけど。



「なあ、如月…。」



ほら、きた!

 


「オレのために準備してくれたんだろ?」 



う…っ



「それだけでオレ…すっげぇ嬉しいけど…それじゃ、ダメか?」



ダメじゃない…ダメじゃないけど…


いつも、紫津木は優しい。


マイナスに傾きかけたオレの心をフォローしてくれる。



でも……



「紫津木…?」



でも……



「オレの事…抱ける?」




カラーン




紫津木が箸を落とした。




……



……ぇ



オレ……もしかして…



とんでもない事訊いてる?



どうしよう… 



ちがっ



「ちがっ…違う!そうじゃなくて、」



やっと声に出た



「その…紫津木は、オレなんかの…どこを好きになったの?」


「最初の質問じゃなくて、いいのかよ。」


「いいから、答えて。」

 

「抱けるよ…つーか、抱きたい。」



えっ……



「何で、そんな事訊く?」



紫津木は、真っ直ぐにオレを見据えていた。

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