互いの気持ち 7


先にリビングの扉を開けて振り返ると、紫津木が、カットソーを拾って、洗濯機がある洗面所に放ってるとこだった。


さり気なくそういう事が出来る紫津木は、無条件に凄いと思う。 


敵わないな…て、思う。



あ…目が合った。


ん?…みたいな顔してる。


なんか…悔しい。



その後、紫津木はキッチンに行って冷蔵庫を開け、「すげぇ。」とか言ってる。


その間にオレは、着替えようと寝室に入り、後手で扉を閉めた。



途端……



全身の力が抜け、背中を扉で擦るように、へなへなとしゃがみこんでしまった。


ひとりになって、気が抜けてしまったのかもしれない。

  

そんなに、気ぃ張ってたかな…。



暫く、ぼうっと天井を見つめていたけど…、


遅いと心配するよね。



よし!

 

 

気合いを入れて顔を両手でこすり、立ち上がった。



着替えを済ませてキッチンに行くと、ハンバーグが焼きあがるところだった。

 


「酒ある?ワインでもいいんだけど。」


「あ…シンクの下にある。……ごめん…後はオレがやるよ。」

 

「いいって。お前は座ってろよ。疲れてんだからさ。」

 


そう言って、片手で一升瓶を持つと、口で蓋を開け、そのままフライパンに注いだ。



「う…うん。」  


 

その一連の作業に見惚れてしまった。

    

Yシャツの袖を肘の辺りまで捲り、エプロンをつけて調理している姿は、いちいちかっこいい。



「どした? 座ってなくて大丈夫か?」


「うん……見惚れてた。」


「は?! どこにだよ。どう見ても、家庭科の調理実習だろ。」


「そんな事ないよ。」



そうだ…もう隠さなくていいんだ。


堂々と見惚れてて、いいんだ。



「バカ…あんま見んな。恥ずいだろ。」


「オープンキッチンだもん。」


と、舌を出して笑ってみせた。



紫津木は、何か言いたそうな顔をしていたが、

1つ溜め息をつくとソース作りを再開した。


だって、ずっと見ていたいんだ。

 

見ていて飽きない。

  

冷蔵庫から、ソースやらケチャップやらバターを取り出して、手際よく調理している。


欠点が無くてイケメン値が高い紫津木が、オレなんかのどこを好きになったのか……


美人な彼女とか居そうだけど……


何で?…信じられない。



「出来たぞ。」



味見していたのか、手の甲に付いたソースをペロッと舐めてる。



うっ……



その舌の動きに目が奪われる。


それに気づいたのか、


「なんだ。お前も舐めて欲しいのか?」


と、唇を舐めた。



「なっ……!」


「クッ……冗談だよ。んな事より皿、どれ使えばいい?」



冗談か……



て…わあぁぁぁっっ!! 何期待してんだよ!




その後、料理をローテーブルに運んで、向かい合わせに座った。



「いただきます。」



きちんと両手を合わせて挨拶する紫津木。


その風貌とのギャップに思わず笑いそうになるが、フッと思い出した事があった。


まだ会って間もない頃、自分の外見が好きじゃないと、話してくれた事があった。

その事で損してきた事が沢山あるのだろうか。


知りたい…。

  

もっと、もっと知りたい。

 

オレ…紫津木の事…何も知らないから…


教えてくれるだろうか…?



「料理は、いつから出来るようになったの?」

   

「ん?…ああ……ちいせぇ頃から手伝ってたからな…」


と、スープを一口飲んで「これ、うま。」と言って、無邪気に喜んでくれる紫津木。



「でも、ひとりで作れるようになったのは、小6の頃かな。」

 

「え…もう、その頃から?」


「その頃は、まあいろいろあって……小6の頃、親が離婚して母親と家を出たから…自然といろいろ覚えた。」



あ…



「なあ…オレの昔の話は…、」

 

「ごめんなさい!気軽に訊いていい話じゃなかったですね。」


「いや……」


「前にも言われたのに…」


「如月?」


「本当にごめんなさい!」


「おい、聞けって!」

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