互いの気持ち 5



柔らかな感触とともに、甘い痺れ…


 

「んっ……」



そして直ぐに、チクッと軽い痛みが走った。


紫津木は、オレに視線を落としながら顔をあげて、

 

「こういうとこ…。」


と、小さな声で呟いた。



『こういうとこ』


オレは、心の中で紫津木の言葉を繰り返していた。


オレに、印を付けてくれた…?


こんなオレに?


そして再び蘇る唇の感触…。



嘘…



紫津木を見上げると、背中を向けて今度こそ出て行こうとしていた。



「ちょっ……」



紫津木から与えられた初めての感触に、酔いしれてる場合じゃなかった。


御花畑になりかけてた思考回路を現実に引きずり戻し、

紫津木の袖口をなんとか掴んだ。



「…待って。」

 


やっと喉から出した言葉。 


紫津木は背中を向けたまま、顔だけでチラッとオレを見た。



「軽蔑したろ?…もうこれ以上…オレに恥かかせんな。」



違う……わかってない…


全然わかってない…


 

「オレが、それを望んでいるとしたら?」

 

「……は?」


「オレが、紫津木に触れて欲しいと望んでいるとしたら、軽蔑するの?

安堂や村井達に、好きなようにされてきた身体で…そんな事望んだら…、オレの事…淫乱だと思う…?」


「お前……何言って…?」



完全にこっちを向いた紫津木の表情は、不思議そうにポカンとしている。

 

 

「紫津木は、わかってない! オレの気持ち、全然わかってないよ…。」



聞いて欲しくて見上げると、いつもの優しい瞳が…困ってるような…寂しそうな…



「オレ……紫津木に触れられる度に、ドキドキして…暖かい気持ちになって…元気になったり…安心したり…弱くなったり…強くもなったり…

そんな…そんな…オレにとって…心の支えになってた…紫津木の事… アイツらと一緒にするな!」


「だからそれは、オレに下心が…、」


「オレが触れて欲しいと思うのは、紫津木だけ!」


「え……っ?」


「もう、いい加減気づけ。鈍感野郎!」


「!…それって…?」



紫津木は、片手で口を塞ぎながらこっちを見ている。


心なしか、微かに震えてる指…。



明確な返事を待ってる。


言わなくても、わかるだろ?


言わなきゃだめ…?


と、目で訴えながら見上げると



だめ

  

と、同じくそんな目で見下ろされ…




「好き…です。」 




言っちゃった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る