第10話 互いの気持ち 1



涙が落ち着いた頃、気持ちも落ち着いてきて、

今までの状況を思い返す余裕が出てきた。


背中を向けて、スマホを弄ってる紫津木に訊きたいことは、沢山あるけど、どう切り出せばいいのか悩む。


ていうか…、今までの紫津木だったら、

泣き止まないオレを抱きしめてくれる…とか…


そうじゃなくても…

泣き止むまで…傍にいてくれるとか


だと思ったのに…


少し恨めしく思いながら、背中をみつめた。


やっぱり…


大事な人のために、そういう事は止めたのかな。



急に遠くに感じられて…寂しくなった。


同時に…

  

背後から抱きしめて、甘えてみたくもなった。

  

びっくりするかな?…ていうか…


叱られるか…。


ま……出来ないけど。



あ……こっち見た。


見てたのバレた?



「あ……顔…洗ってくる。」


「おう。」



再び、スマホに目を移す紫津木。



馬鹿……。


……いいよ…もう…。



……て、何が?



ああ…止め止め!


考えるの止め!



洗面所に行くため、立ち上がった。


ていうか、立ち上がろうとしたら、足首がズキッとして…



不覚にも……


転んだ…。



ヤバい…!

  


紫津木の方を見たら、案の定こっちを見ていた。



「はぁ………」



え……今、溜め息ついた?



「ちょっと待ってろ。」



そう呟くように言って、リビングから出て行った。 



もしかして…


ずっと、機嫌悪かったのかな?


背中向けてたのも、黙ってたのも、


そのせい?




カチャッ



リビングに入ってきた紫津木の手には、タオル。



え……



オレの前でひざまずくと、優しくオレの前髪をかきあげた。



「しょうがねぇな。」



そう囁いてから、持ってきたタオルで、オレの顔を拭き始めた。



温かい…。


気持ちいい…。



目をつむって、されるがままにしていると、小さな笑い声が…。



なんだろ?と思って、薄目を開けると



「お前…無防備過ぎ。」


と、笑いを堪えていた。



「なんだよ…。」


「そんなんじゃ、オレにキスされても文句言えねぇぞ。」



なっ……!



する気も無いくせに。


ていうか、文句言わないし…。



紫津木は、オレの表情を勘違いしたのか、急に真顔になった。



「悪ィ。……冗談だ。」


 

わかってたよ。



2人の間を変な空気が流れたが、

そう思ってたのは、オレだけなのかもしれない。

 

それは、紫津木が普通に話し始めたから。  



「なぁ、救急箱ある?」


「……えっ?」


「消毒しておかないと。」


「あ…こんなのいいよ…放っておけば治る……。」


「いいから。」



今更だけど……どっちが年上なんだろ…



「後ろの戸棚の中に…。」



ローテーブルにタオルを置いて立ち上がったので、取りに行くのかと思ったら、



「ひゃっ……!?」



オレは、姫抱きにされていた……。


間近に紫津木の横顔……。



「ちょっ……お…降ろせ…。」


「暴れんなよ。出窓に座らせるだけだから。」 


「ぅ………。」



紫津木の表情は変わらない。


オレばっか意識して……バカみたい。


紫津木は優しく出窓に降ろして、戸棚の中から救急箱を取り出すと、オレの前に座った。

 

片膝をついてオレの足首を持っているその姿はまるで……


執事がご主人様に靴を履かせている様な姿と重なり……


……て、ああぁぁぁっ……!


ひとりで何妄想してんだよ!



オレが、そんなことを考えている間も、紫津木は、淡々と処置をしている。


なんか……こんな感じに見ていられるのって……いいな……。


じっと見つめても、不自然じゃないし……


それに、紫津木のつむじなんて、めったに見られないしね。


殆ど金髪に見えるけど、近くで見ると茶色の髪も混じってて……少し長めの前髪……。


オレ……紫津木の前髪かきあげる仕草……好き……。


触ると柔らかくて……



「なに……?」


「えっ……?」



て……ああぁぁぁっ!本当に触っちゃってた……!



「ごめんなさい!……なんでもないです。」


「いいよ。その手も貸して。」


「はい……。」



笑顔が眩し過ぎます。



紫津木は、オレの手を軽く握って、消毒液をかけた。


足首より手首の方が、暴れた形跡が色濃くて……。



「…………痛っ!」



かなりしみた……。



「悪い……予告すれば良かったな。」


「大丈夫……これくらい……」



紫津木は、「そうか?」と言って傷口に_、


「ぁ…んっ」



変な声でちゃった!


息なんて吹きかけるから……!



「ごめん……!」



慌てて手を引っ込めた。



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