決着 5


「そいつは、脳しんとう、そっちは、あばらの1本2本ひびが入ってるかもな。 早く病院連れて行ってやれ。」



それから、オレの側まで来ると、縛っていたロープを解き始めた。


その表情は、いつもの紫津木に戻っていて、ほっとした…。



「赤くなっちゃったな……」



さっき暴れたせいもあり、所々血が滲んでいる。



「怖い思いさせて、ごめん…。」


「なんで……謝るの……?」


「守れなかった……。」



あ……



「違うんだ。…オレが…安堂を入れたんだ。 話し合いたくて…。」


「…そうか。 ……話してくれたら、オレも同席したのに。」


「そんな事、させられないよ。 今日は、大事な人と会ってたんだろ…?」



顔を見ることが出来ず、目を伏せた。



「は?…なに」


「なぁ……?」



他の2人を外に連れ出した安堂が、去り際、紫津木に声をかけてきたのだ。



「なんだ……?」



足首のロープを解き始めていた紫津木は、安堂を見ずに返事をした。



「はっきり言って、そいつとオレは何回もヤってんだぜ。 オレだけじゃねぇ、無数の男達のはけ口になってたんだ。 そんな奴、助けに来る価値あったのかよ。」



さっきまでの嫌みな言い回しはなく、本当に答えを知りたいようだった。


足首のロープを解いた紫津木は、真っ直ぐにオレを見つめている。


オレも真意が知りたくて見つめ返す。



「てめぇに、愛の価値について語る気は無ぇ。」


「ふぅん……。ま、いいけど、そいつはこれまで、複数の男に抱かれてきたんだぜ。 お前1人に満足出来るのかな?」


「……オレの身体にしか感じない身体にしてやればいいし、ついでに、お前らの記憶も、こいつから消してやるよ。」



なっ……!


そんな……真顔で見つめながら言うなよ……!


オレは、どんな顔をしたらいいのかわからず、目を逸らした。



「あっ…そうだ。頭に、血ぃのぼってて、肝心なこと忘れてたわ。 」



表情が無い真顔のまま、安堂の前まで

歩み寄った。


今度は、何をされるのかと安堂は、ビクついてる。



「てめぇが持ってる愛の写真を削除してもらいてぇんだけど?」



その内容に、少し安堵の表情を浮かべ、



「お…おお。いいぜ。」


と、紫津木に自分の携帯を差し出した。



「バックアップもコピーもしていない。信じてもらうしかないんだけど…。」



紫津木は、無言でオレにその携帯を放った。



「ぇ…」


「お前に任す。」


「…わかった。」


「それと…まだあんだろ? 愛と葵さんのやりとりを録音したっつーヤツは?」


「ああ…あれね。」 


と、安堂は、唇に薄く笑みを浮かべた。



「…録音なんかしてないよ。」



「「……は?!」」



「カマかけただけだ。 …でも、本当にヤッてたなんてな。クッ…笑える。」



そんな…

  


嘘だったの…?



そんな…!

 


今まで…何のために…?  



何のために…オレは…



アイツらの要求を受けてきたんだ?



そんな……



「…てめぇ、オレが、なんで寸止めにしといてやったのか、わかってねぇみたいだな。」



安堂の胸ぐらを掴みながら、睨んだ。



「ふぁい?!」



安堂は、訳が分からず怯えている。



「てめぇ相手に、手加減する自信が無かったからだ。」

 

「え?! あ…で…でも、村井は?!」


「村井?…ああ…最初の奴か…」



安堂は、勢いよく首を縦に振った。



「後片付けする奴を残しておかねぇと、めんどくせぇだろうが。」



腰が抜けたようで、へなへなとしゃがみかけたところを紫津木に阻止された。


安堂の腰を支えて、顔を近づけ



「腰抜かす前に、出ていってくれねぇか?」

 

と、唇に囁いた。



「…じゃ…じゃあな!」



安堂は、顔を真っ赤にして逃げるように部屋を出て行った。


パタンと扉の閉まる音が、室内に響いた。



出て…行ったの?



ぇ……嘘…



もう……来ない…の?



「如月?…大丈夫か?」


「え……」


「終わったんだ…全部。」



終わった…?


終わった…の?



もう…相手しなくても…いいの?



あ……



「……ありがとう…紫津木。 オレ、ひとりじゃムリだった……助けてくれて…ありがとう。」


「お…おう。」



照れ隠しなのか、ぎこちなく歩いてきて、オレの頭をわしゃわしゃっとした。



「だから…もう泣くな。」



え…オレ…泣いてた?



わからなかった。



力が抜けて前のめりになり、両手を床についた。





終わったんだ。



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