向川(むかいかわ)高等学校 7



「悪い如月。少しの間、後ろ向いてて。」


「?…いいよ。」



オレが背中を向けると、フワッと紫津木の頭がオレの肩に…!



「紫津木…?」


「悪い…少しでいいから、このままでいさせてくれ…。」


「うん…。」



オレの心臓が右肩に移動したみたいに、すごくドキドキする。

紫津木に触れられる度…馬鹿みたいに緊張する…。


気づいてる?


柔らかい髪が、耳に触れて…それだけで…どうにかなってしまいそう…



「あの…紫津木?」



オレは、たまらず声をかけた。



「オレ…今みたいな自分…嫌いなんだ。」


「えっ?嫌い?」


「…オレ、中学まで空手バカで、空手しか知らなかったんだ。 高校に入って、たまたまスカウトされてモデルになって…その頃から急に周りが騒がしくなった。 中身は、空手バカのままだったから、戸惑ったよ。

でも…そのうち気づいたんだ…。 周りが求めてるのは、モデルのオレなんだって。 …だから、モデル紫津木藍として対応すればいいんじゃないかって。 …そしたら、すっげぇ楽になった。」



紫津木…



「でも最近…そんな自分に違和感を感じてきて…。 だから、今みたいな対応した後って、自己嫌悪と疲労感で、すげぇ落ち込む。」


「紫津木…、」


「もう少し、自分の事も周りの人間の事も、好きになりたい…。」


「紫津木?……少なくとも、今の彼女達は、助けてくれた優しい先輩に、会いに来たんだと思うよ。」


と、柔らかい彼の髪をポンポンとした。 



「…それに…その…大事な人のために、いろいろ止めたんでしょ? それって、紫津木が変わろうとしているということだよね。 オレがもし、その人だったら、凄い誠意を感じると思う。

だからオレも見習って……決めた。」



紫津木は、オレからふっと身体を離した。



「オレ…紫津木以外の男を家に入れるの、止める。 ……紫津木の顔…見ていい?」


「ああ。…いいよ。」



振り向くと、照れくさそうに髪をかきあげながら、こちらを見ていた。


頬はうっすらとピンク色に紅潮して、瞳は夕日が映え、キラキラしている。 


綺麗…



「今のホント?」


「えっ?」


「その…誠意を感じるって…」



ぇ…そっち?!



「あ…うん。本当だよ。」


「そっか…良かった…。」



彼は、ホッとしたような…でも少し寂しそうに微笑んだ。



「紫津木…?」


「それ聞けただけで、満足だわ。」


「それって、どういう_、」

「お前…注意しろよ。」


「へ?!」


「オレのと違って、お前の決意は危険を伴う。」



意味がわからず、首を傾げてみせると、彼は、大きな溜め息をついた。



「全然わかってねぇんだな。 とにかく、玄関の鍵は常にかけとけ。 インターフォンが鳴ったからって、むやみに出るなよ。 外に出たい時は、オレが付き添ってやるから、絶対にひとりで出るな。わかったか?」



圧倒されて、首をコクッコクッと、2回縦に振った。


紫津木は、「よし。」と言うと、キャップ型のメットをオレに放った。



「明日、少し遅くなるけど必ず行くから、おとなしく待ってろよ。」


「その…大事な人に会うから?」


「はあ?」


「もしそうなら、オレの部屋なんかに来なくていいから、その人とずっと過ごしてやってよ。」


「違ぇよ。明日は…いや…いい。 さっきも言ったけど、オレに気を遣いすぎなんだよ。オレは、如月の家に行きたいんだ。」



オレの髪をクシャクシャっとすると、バイクにまたがった。



「ほらっ早く乗れよ。置いてくぞ。」



でも…そんな人がいるってわかった以上…決心しなきゃね。


このままじゃ良くない。


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