向川(むかいかわ)高等学校 4



背中越しに、声がする方を見上げると、  


ぁ…、会えた……! 



「紫津木、遅ぇぞ!」


 

ああ…

  


「うるせぇ。何人居たと思ってんだ?」



紫津木の声が、肩に響いて心地良い…。



「お前の説明が悪すぎるんだよ。 ショートヘアーの女の子だけじゃ、わかりづらいわ。」


「…ごめんね。オレが、勝手に会いに来たから…」

 

「何か、あったのか?」


「ううん。ただ…会いたくて…紫津木のこと…迎えに来ただけ。」


 

身体のダルさのせいか、本音をぽろりと口にしてしまった。

 


マズい…!

 

慌てて誤魔化そうとしたら 



「紫津木…お前も、そんな顔するんだな。」



ぇ…?



「うるせぇ。」



紫津木の顔は、見上げてもよくわからなかったが、

北本くんは、からかう様な笑みを浮かべていた。



「でも、本当にごめんなさい。紫津木に訊かないで、急に押しかけて…。 迷惑かけちゃった…。」


「迷惑なわけねぇだろ。オレに会うために、苦手な外に出てきてくれたんだろ? すげぇ嬉しいよ。」



耳元で囁かれて…


熱が…また上がりそう。



ウォホンッ



北本くんの咳払いだ…



「そういうの、余所でやってくんねぇか。」


「まだ、なんもしてねぇだろ?」


「「まだ…て?」」



北本くんと、ハモってしまった…。



「ほんの…冗談だ。」



声のトーンが変わった。


表情がわからないから…不安になる。



「…んじゃ…オレ達帰るわ。」


「おお。」


「如月、歩けるか?」


「うん…大丈夫。」


「辛かったら、オレに掴まれ。」


「…ありがとう。」



背後にいた紫津木が、オレの隣にきてくれたので、漸く表情を見ることができた。


いつもの穏やかな表情だったのだが、直ぐに変わってしまった。


 

「紫津…木?」



紫津木は、さっきまでオレを取り囲んでいた集団に、視線を向けていた。


睨む…という生易しいものではなく

どこにも付け入る隙が無い

氷のような表情だった。


不安になり、紫津木の袖を掴む。


前髪をかきあげながら、オレを見下ろす表情は、穏やかなものになっていた。



「北本。今日は、色々とサンキュな。」


「だから…オレに礼なんてするなよ。気色悪ぃだろ。」



紫津木を見上げると、口角が上がってた。


本当に、仲がいいんだな。

ちょっと、羨ましい。


紫津木が歩き始めたので、オレも北本くんに一礼してから、続いた。


紫津木の隣に追いつくと、さり気なく左手がオレの前に。  

 

見上げても、前を向いたままで表情は、わからない。

 

いいのかな?と、思いつつ右手をのせてみる。


すると、軽く引き寄せられて再び歩き始めた。

 


さり気なさすぎて、悔しい。


慣れてる…。

  

顔も知らない、これまで紫津木の隣を歩いたであろう女性達に、嫉妬した。

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