向川(むかいかわ)高等学校 3



「あ~、まだ教室にいるけど…なんで?」



するとその後輩くんは、オレのほうを見ながら説明し始めた。



オレの当初の計画から、だいぶかけ離れてきた。

校門から出てきた紫津木に、こっそり声をかける予定だったのに…



「あいつ、1年女子の大行列に捕まってたから、まだ来れないんじゃないか?」



えっ?そうなんだ…。


そりゃそうか…。紫津木、人気あるだろうし…

紫津木には紫津木のつきあいがあるわけで…


やっぱり、ここに来たのまずかったかな…。


帰るか…。



「ありがとうございました。やっぱり帰ります。」



集団の前まで駆け寄り、北本という生徒に声をかけた。



「ちょっ、ちょっと待って! 女子といってもいつものことだし、深い意味は無いから。今、呼び出すから!ね?」



あ…もしかして…


オレのこと、女子だと思ってる?

あれ…他の人も、みんなそう思ってるのかな?


彼女が学校まで迎えに来たのに、1年女子と遊んでる_的な図式になってる?


…?遊んでる_て…


そんな事考えてた自分にびっくり…

いや、違う違う!ヤキモチじゃないからね。



「…出ねーな。 何やってんだよ、こんなかわいい子待たせて!」


「あっ違うんです!約束しないで、突然来ちゃったから…。」



ああ…帰りたい!


紫津木にバレる前に。


さっきより、集団がひと回り大きくなってる気がする。


怖い…。



「あの…?」



さっきの後輩くんだ。



「やっぱり、紫津木先輩と同じで、モデルやってるんですか?」


「えっ?」


「背も高いし、スタイルもいいし…な?」



周りの生徒も、頷いている。


背が高い_て…やっぱり、オレの事女子だと思ってるんだ。


恥ずい。


いっそ、男とバレる前に、この場から立ち去りたい…!



「いや…違うよ。」


「えっ?違うんですか?てっきり、これから2人で仕事に行くのかな?って、オレら話してた_、」


「ちょっと違うってどういうこと?」



今まで黙って聞いていた女子達が、割って入って きた。



「モデルじゃないんだったら、何?まさか彼女?これから、デートとか?」



この質問が一番興味があるらしく、他の女子も男子もオレの返事を待っている。



「え…と…」



それは、オレ自身も知りたい。


友達…?ていう感じでもないし


紫津木は、どう思ってるんだろ。


いや……


何言ってんだ。


はっきりさせたくなかったのは、オレじゃん。  


オレ達の関係なんて…


はっきりさせたら、終わり。


紫津木が、オレの前から消えてしまう。


そんなの、わかってたじゃん。

 

無限ループ。堂々巡り。


この気持ちと引き換えに、オレは紫津木の傍にいることを選んだ。



「ちょっと。どうなの?」 



でも…なんて言えばいいんだ?


一言では説明出来ないよね。 


そもそも、オレの家での関係、

外でも通じるの?


オレ達は家限定の関係で、

外では、会いたくないと思っていたら?


自分の領域に入ってきて欲しくないと思っていたら?


紫津木の気持ちも確認しないで会いに来ちゃって…。


やっぱり…帰ろ…。



「北本くん…」


「は…はい!」



耳に当てていた携帯を下に下ろしながら、返事をしてくれた。


紫津木と仲がいいのかな?

良いお友達だね。



「やっぱり…帰ります。」


「えっちょっと待って、紫津木だったら今…」


「逃げるの?」



逃げる…て…



「そういうわけじゃ…」



身体が…ダルい…


頭が…くらくらしてきた…



「じゃ、答えてから帰ってよね。」


「お前ら、いい加減にしろ!」

 


北本くん?


彼は、オレを庇うようにオレと彼女達の間に入ってきた。



「紫津木に嫌われたくないんだったら、これ以上の詮索はやめとけ。」



そして、振り返ってオレに笑顔を見せてくれた。



「必ず、紫津木に会わせてやるから。ね?」


「…ありがとう…でも…」


 

…辛くなってきた…から


保たないかも…


身体が…ふわふわして…波に浮かんでるみたい…


頭が…重くて…顔を上げてられない…


迷惑かける前に…帰らなきゃ



「大丈夫?」



北本くんの声が、遠くに聞こえる。


景色が…くるくる回って…


あれ…空が見える


あっ…この感じ…



倒れる…!



ポスッ



ぇ…背中が…柔らかい?!


あ…この匂い…!


 

「なんの騒ぎだ?」








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