第8話 向川(むかいかわ)高等学校 1



「オイ…起きろ。」



ん……?

   


「起きろ。…紫津木!」



誰かが、身体を揺すってる。



「紫津木!そろそろ起きてくれないか。」



誰だ?この声…?



「オレ、帰りたいんだけど?」



え?!北本きたもと


ガバッと起きあがると、誰かのブレザーが背後に落ちた。


それを反射的に拾い上げると、北本は、オレの手からそれを奪い取った。



「お前、不用心過ぎ。」


「え?何?」

 

「何?じゃねぇよ。お前の寝顔撮るんだ、つって、他のクラスからも女子が集まってきて、大変だったんだからな。本人は、爆睡してるし…。」


「それで、ブレザーを?」


「感謝しろよ。」


「サンキュな。」


「オレにその笑顔は、止めろ。気色悪い。」


「これでも感謝してるんだぜ。北本がいるから、普通に学校生活送れてるんだからさ。」 


「別に…お前のマネージャーに頼まれてるからな。」



照れてんのか?


オレから視線を外し、明後日の方を向いちまった。


しっかしオレ、いつから寝てたんだ?


6限の数学の途中までは、憶えてるが…

堂々と机に突っ伏して寝ちまったんだな。


北本もオレの顔をブレザーで、ガードして…


何しに来たんだ?て、話だよな。



「あんま、気にすんなよ。 お前、品行方正で成績優秀だから、先生達の印象も悪くないし。」


「先生達…て?」


「ああ。お前の居眠り見過ごしてくれたの、数学の岩野だけじゃなくて、その後HRがあったから、担任の大山もだな。」



なんか最悪…。


弱味を握られたと思っちまうのは、オレがひねくれてるせいなのか?



「仕事…忙しいのか?」


「ん?…ああ…大丈夫だ。」


「あんま、無理すんな。 今度、オレんちにメシ食いに来いよ。母ちゃんも久しぶりに会いたがってるしさ。」


「おお。サンキュな。」


「だから、その笑顔は止めろ。」


「紫津木くん!1年の女子が呼んでるよ。」



教室の入り口を見ると、クラスの女子…名前が出てこない_が、オレを手招きしてる。


廊下のほうを見ると、1年の女子らしき人影が、こっちを伺っていた。



「お前も忙しいな。」


「その笑い、馬鹿にしてんだろ。」


「じゃ、オレ先帰るわ。」



無視かよ。



「おお。じゃあな。」



北本は、オレより先に廊下に出たが、廊下の先を二度見したかと思うと、こっちを見て意味深な笑みを浮かべて出て行った。



んだよ。北本の奴…

 


「何の用?」



訊きながら廊下に出たオレは、絶句した。



「ひとりじゃなかったの?」

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